ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第3章 史実

第14話

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「馬鹿璃桜………!」



その言葉と共に、血の雨が降り注ぐ。
ばたばたと、袴に、腕に、髪に、顔に。



「英雄の登場だぜ」

「もう、駄目じゃん、この場所にいたらいつでも危険はそばにあるんだから」



見知った動きと、声に、はっと顔をあげた。

血しぶきを浴びて歳三に加勢しているのは、そうちゃんと左之さん。

3人の手にかかれば、あっという間に片が付いて。
私はまた、何もできずに、ただ足手まとい。

残されたのは、黒の死体と、土煙と、深紅の水たまり。



「助かった、わりぃ」



ザン、と大きく振って、刀から血を落とす歳三の感謝の言葉に、左之さんとそうちゃんも刀を拭いながら返す。



「まぁ、これが俺たちの仕事ですし」

「土方さんも良くやりますねぇ」

「ああ、…………っ!」



二人の言葉に頷いたと思ったら、いきなり思い出したように私に向かって来る歳三。



「璃桜!!!! この馬鹿!!!!!」



ぱしん、音と同時に頬がはじけた。




「土方、さん!」

「おい、ちょっと、やり過ぎだ…!」



ひりひりとした痛みと、叩かれたという現実が後から追いついてきた。
そうちゃんと左之さんの慌てる声も届かず、歳三はなぜか私を睨みつける。



「如何して走らなかった」

「………」

「俺は、言ったよな。走れって、そう言ったよな」

「………」



頑なに黙ったままの私の方を掴んで揺らす。

その強さに、そうちゃんが歳三の腕を掴んで、言った。



「璃桜は何も知らなかったんですよ! やり過ぎです!!」



その言葉に、ふっと。

ある考えが、浮かぶ。



「…………ねぇ、如何して私と出かけてくれたの?」



じっと、歳三の瞳を見つめる。

ねぇ、何か言ってよ。
はしゃいでいた私が馬鹿みたいじゃない。



「っ、えっと」

「璃桜、あのな、……」



そうちゃんと左之さんがたじろいでいることから、考えは確信に変わる。



「知ってるよ」



すぅ、と一息に言葉を押し出す。



「おとり、でしょ?」



最近は、長州の人たちが出てきているとの噂は、壬生浪士組にも入ってきていた。

そんな時分に。
壬生浪士組の、土方歳三。

そう、こんな大物が着流し姿で街にいるんだもの、敵にとっては狙ってもないチャンスじゃない。

歳三は、自分がおとりになれば必ず敵が仕掛けてくることに気付いていた。

それを知っていたから、ずっと周りを警戒していて、甘味処での自分に向けられた殺気にも気づいたし、敵が、自分たちの存在をきづかれたと思って追いかけてくるように、あんなに急いで走った。

甘味処を出てからこの場所へ誘導するために。

ここに来れば、左之さんとそうちゃんが待機しているから。

3人で斬りかかれば、直ぐに敵は倒せるから。

なんて、計算高い。




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