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第3章 史実
第12話
しおりを挟む「……いきなり、どうし―」
「…………走るぞ」
「え、」
ぐい、と力強く引かれる腕に、加速する足。
縺れる足をどうにか動かして、歳三についていく。
ついていくうちに、脚の向かう先は、屯所だというのは分った。
けれど、やっぱりその速さにはかなわなくて。
「…………っ、は、ま、まって……」
周りの人通りが少なくなったところで、限界が来て、立ち止まってしまった。
歳三は、ぐっと掴まれた腕を掴んで、つまづく様に立ちどまり、息を荒げている私を見て。
「………っ、」
何故か、痛い顔をした。
そんな顔を見ていられなくて、俯く。
私が、また迷惑をかけてしまったような気がして。
走ったことでふきだした汗が、前髪を濡らした。
「ちょ、ごめんねぇ、……そん、なはや、く、走れな……っ、はぁ」
「…………やっぱ、駄目だ……」
「え?」
ぼそりと呟いた言葉が耳を掠めたけれど、何と言っているのかは聞こえなくて。
「何?」
訊き返せば、なんでもねぇよ、と笑って。
「………まぁ、仕方ねぇ、か。ちょっとこれ借りんぞ」
「え、」
そう言って、私をなぜか背に回す。
「あと。―――――隙を見て走れ」
「―――は、?」
何処に――そう、訊こうとした。
だけど。
「――――――っ!」
訊き返す間もなく、ぶわりと。
張りつめるように、鋭く。
キン―――と鯉口をきって。
―――――――――殺気を、出す。
途端。
「壬生浪士組、土方とお見受けいたす」
わらわらと物陰から刀を構えて、黒装束の人たちが、出てくる。
「いかにも」
そう答えて、そのまま斬りかかって来そうな緊張状態の黒装束の人たちに近づき。
待て、そう言って、鋭い殺気のまま。
「こいつぁ、関係ねぇ。俺のこたぁは何してもいいから、こいつにだけは手を出すな」
私を、道の奥に追いやる。
歳三を囲む殺気は、その言葉と共に増して。
「ああ、約束しよう」
黒装束の人が頷くまで、おさまらなかった。
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