50 / 139
第3章 史実
第11話
しおりを挟む「ああ?あんま食わねぇの知ってるだろ」
そう言われてしまうと、脳裏に沢庵を齧る歳三が浮かんできて、頷かずにはいられなかった。
「……確かに」
思い返してみれば、近藤さんや山南さんはそうちゃんとよく甘味をぱくついているけれど、歳三はどちらかといえば沢庵をぽりぽり齧っている様子が浮かぶ。
「甘味ばっかり食べてると太るぜ」
「……余計なお世話」
甘味上等、とばかりに口に運んでいれば、何故かふっと笑い声を零して、歳三は言った。
「まぁ、おめぇは痩せてると思うけどな」
「え」
「軽いしよ」
そんな事を言われるとは思わなくて、驚いた私に。
「もうちっとこう、な」
片頬をあげてにやりと笑って、そう言った。
せっかくちょっとときめいたっていうのに。
私のきゅん、返せ。
「……………うるさい」
どうせ貧乳ですよ。
まな板ですよ。
「冗談だ、馬鹿。本気にすんな」
「…………」
「胸じゃねぇぞ、大事なのは心だぞ」
「うる、さい」
くつくつとこらえきれない笑い声を零しながら、フォローしてくる。
そのフォロー、フォローになってないし、余計みじめになるのに。
そう思って、無言で最後の一口を口に入れた。
優しい甘みが口に広がって。
ふわりと、笑顔になる。
「………ふ、は、」
その様子を見ていた歳三が、こらえきれずに笑い出す。
「おめ、単純すぎんだろ」
「何よ、美味しいもの食べて笑顔になって何がいけないのよ」
「………そういうとこだよ」
「もういいもん」
子どもですよ、どうせ。
9歳も年上の貴方にはかないませんよ。
そう思ってちくりといたんだ心に蓋をして。
「……腹いてえ」
漸く笑いが落ち着いた歳三が、ふと、目を眇める。
如何したのか私が把握できないうちに、もとの凛とした表情に戻り。
そして、お店の人に声をかける。
ちゃりん、と音がしたと思えば、お店の人は営業スマイルで。
「毎度あり!また来てなぁ」
だけど、歳三は、そんな笑顔も見ないまま。
「行くぞ」
さっと立ち上がって、左手で私が外していた刀を持ち、右手でぐいと私の腕を引いて、すたすたと歩きだす。
「え、まって」
「早くしろ」
お店をでてからも急ごうとする歳三の行動の理由が分らず、足を止めようとするも、腕は捉えられたままで。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。


新撰組のものがたり
琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。
ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。
近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。
町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。
近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。
最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。
主人公は土方歳三。
彼の恋と戦いの日々がメインとなります。


『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる