ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第3章 史実

第10話

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「ならいいけどよ、おめぇはいろいろ考えすぎなんだよ」



ほらよ、そう言って彼が差し出して見せたのは、包まれたお饅頭。



「総司に買ってくんだろ」

「……ありがと」



暑い中並んでくれた歳三に、感謝しかない。



「餡蜜おまたせいたしました」

「わぁ」



この時代の食べ物は、本当に綺麗。

淡い桜色や、若葉色のぎゅうひ、透明に光る寒天、艶やかな小豆。

現代でも餡蜜などの甘味は好きだったけれど、この時代ではなんだかとても美しく見える。



「いただきます」



美味しく食べていたら、何だか神妙にこちらを見ている歳三と目があった。



「……な、何……?」

「いや、おめぇよくそんな甘ぇもん食えるなぁ」

「え…? おいしいよ?」



そんなに甘くないのに。
平成のチョコとかの方がよっぽど甘い。



「………食べてみる?」



いつもより優しい歳三に、ちょっとだけ、欲が出た。

年上の男の人とお出かけして、カフェに寄っているような、この状態。

一つの物を、二人で分け合うとか。

少しだけ、そういう普通の関係を望んでしまって。

お鈴ちゃんを見てしまったからかもしれない。

服装は、袴だし、髪だって適当に括っただけだし、すっぴんだけど。

だけど、少しだけ、普通の可愛い女の子になりたくて。

歳三に向かって、餡蜜を差し出す。

それを見て、眉を顰める歳三。

ああ、やっぱり、歳三だな、そう思った時。



「………」




ぱくり、寒天が歳三の口の中に。



「え」

「……んだよ、食っちゃいけねぇのかよ」

「え、いや」



まさか、本当に食べてくれるなんて思わなかったから、思わず声が出てしまった。

というか、この時代でこんなことして大丈夫なの。

今更だけど、目立っているんじゃないかと心配になり、きょろきょろあたりを見まわした。

案の定、視線は、私たちに刺さるように向いていて。
じわじわと上がってくる羞恥。

そして、それに比例するように、私の頬は熱を持つ。
だけど、当の色男は、周りの目線なんて気にもせず咀嚼して、一言。



「………あめぇ」

「………餡蜜だもの」



苦いものでも食べた子どもの様に、舌を出す歳三は、目の前にあった湯呑みを持ち。



「俺は沢庵の方がいい」



そう言ってお茶をすする、その姿でさえも粋で。

なんだか悔しくなった私は、朱に染まってるだろう頬を隠すように頬杖をつき。



「甘い物、食べないの?」



ここで食べない、っていったら、これから先の差し入れの甘味は、私がもらってやる、と決めて尋ねた。

そんな私に歳三は、なんだ、そんなこととでも言うように、片方の眉をあげて答える。




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