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第3章 史実
第5話
しおりを挟む少しだけ腑に落ちないような表情だったのは、たぶん、気のせいだろう。
だって、そこで腑に落ちないわけがないんだから。
「着いたぞ」
「あ、うん」
そんなこんなで、ぱっと見上げれば甘味処ののれん。
「この列に並ぶのか………」
うんざりとした声に横を見れば、限定饅頭を買い求めようとする人の長蛇の列が。
その様子は、某テーマパークのワゴンを髣髴とさせる。
「すごいね………」
「しかたねぇか………」
面倒くさそうにそう言って、歳三は、何故かお店の人に声をかけた。
「すみません」
「はーい」
出てきたのは、可愛らしい女の人。
「いらっしゃいませ……と、お饅頭をお買い求めでしょうか?」
「ああ、そうなんだが……」
そこで少しだけ歯切れが悪くなる歳三。
その先に落ちた言葉は。
「………こいつ、中で待たせてやってくれ」
「え」
「はい、わかりました。こちらへどうぞ」
驚いて思わず声を出してしまった私を見て、優しく笑った彼女は、どうぞ、とのれんをあげた。
「でも、」
「うるせぇ、黙って店ン中入れてもらっとけ」
「うん……」
なんなの。
なんか、今日、ずるい。
歳三が、優しすぎて、変な感じ。
ふわふわして、きゅん、と胸が締まる。
「………噂通り、素敵なお方ですね」
「は、え、」
声をかけられてふわふわしていた気持ちから覚醒する。
目の前にいる女の子は、そんな私の様子に、ふわり、と笑って。
「土方さん、でしょう? 壬生浪士組の」
「ご存じなんですか?」
「ええ、浮世絵から抜け出してきたみたいな方だって、女子たちの中ですごい噂よ」
「………やっぱり、そうですよね……」
あんなに、綺麗なんだもん。
そう思ったところで、何故か恋する乙女モードになっている自分の思考に気付き、突っ込みを入れた。
私は、男。
壬生浪士組副長の小姓なんだから。
目の前のふわふわした可愛い女の子とは、住む世界が違うの。
「貴方も、壬生浪士組の人?」
「ええ、そんな感じです………って言っても、居候のようなもので。副長の小姓をさせてもらっているんです」
「あら、そうなの。でもいいですね、土方さん、お優しそうで」
「そんなこと、ないです!!!!!」
思いっきり否定したら、何故か目を見張る、女の子。
そして。
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