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第3章 史実
第1話
しおりを挟む「…………」
じっとしているだけなのに。
「………あつ」
気付けばふつふつと汗が湧く。
さっきから口に出す言葉は、ずっと同じ。
「………あつい」
「………うるせぇ」
「………どうにかなんないの」
「………なるんだったらとっくにどうにかしてらぁ」
ぐだぐだと終わりの見えない会話に伴って、さらにやる気が出なくなる。
風通しを少しでも良くするために襖を全開にした部屋で、ごろりと畳に横になって、歳三と二人ぐだついている。
そう、今日は、非番。
勿論、歳三は毎日有りえないほどの書類に囲まれているし、今日だって例外ではない。
けれど、一応、近藤さんが認めたお休みの日である。
歳三は仕事があるだろうから、その辺の暇な人を捕まえて、どこかに出かけようかとも考えていたけれど、今は7月も半ば。
こう、酷く暑くては出かける気もそがれてしまう。
だから、こうして二人でぐだついている次第。
「りーお」
「あ、そうちゃん」
ひょい、と襖から顔を覗かせたのは、そうちゃん。
「如何したの」
そう言ってよっこらせ、と身体を起こせば。
「ねぇ、お願いがあるんだけど」
「何?」
「甘味買ってきて」
「……は?」
「いや、だから、甘味」
「いや、うん、聞こえてるけど」
問題はそこじゃなくて。
「甘味なら台所にあるじゃない」
そうちゃんは大の甘いもの好き。
だから、いつも自分のお給金で買った甘味を台所や部屋の引き出しに隠し持っている。
それを食べればいいじゃない、そう思って言ったけれど。
真ん丸の目を見開いて、頬を膨らませて、子どもみたいに。
「違うんだよ!! 今日は限定の饅頭が発売されるんだよ!!」
そう言って、ちろりと歳三を睨む。
「だから、俺、前々から今日は非番にしてってお願いしてたのに………」
「しかたねぇだろう。俺にゃその権限はない。近藤さんにお願いすればよかっただろ」
「俺の、生き甲斐なのに~!!」
そんな子供みたいな理由で、今にも泣きそうな顔をしてうなっている、かの有名な沖田総司。
そう言えば、子どもの頃も、限定の味のお菓子が発売されると真っ先にお小遣いをはたいて買っていた気がする。
歴史学者たちが知ったら、驚いて目を丸くするだろうな。
沖田総司が、平成から来た、お菓子好きな人だったなんて。
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