ただ儚く君を想う 弐

第2章 大坂出張

第16話

と、その時。



「………っ！？」



1人の力士が、私の存在に気が付いて。

八角棒を振り上げる。

それをまるで、スローモーションのように感じて。

そうちゃんから預かった、“大和守安定”。

それを、使うの？
今？

なんて、頭で考えていた。



「璃桜！　防げ！！」



けれど、体は正直で。

耳を打った齋藤さんの指示通り、咄嗟に、鞘ごと振り上げて防ぐ。

ガァァァン、と衝撃が走って、刀を取り落しそうになる。

女の私が、力士の力に勝てるわけなんてなくて。

勿論負けて、部屋の奥に吹っ飛ばされる。



「い、っ、」



衝撃に、意識が飛びそうになる。

でも、そんなこと言ってられなくて。

次の一手が来る前に、覚悟を決める。



「………私は、」


――――壬生浪士組の、一員。

だから。
キンッ、と刀の鯉口をきる。

そして、一気に引き抜いた。

鈍く光るそうちゃんの大和守安定を、正眼に構える。

いつでも、来い。



どくんどくんと胸の音を聞きながら。

相手のことを、睨みつける。



その時。



しゃらり………


あの、夢と同じ、簪のなる音がした。

瞬間、かっと何かが燃え上がるような感じがして。

何かに、戒められたかのように、身体がびくりと震えた。



「………璃桜？　大丈夫か！？」



齋藤さんの声に、何が起きたか理解できないままで、頷く。

如何して、何で。

疑問なんて、沢山出てくるけれど。

斬っては、いけない。

そう、胸元に戻っている簪が言っている気がして。

くるりと、持っていた刀をひっくり返す。



「……璃桜さん！？　何を……」



誰かが声をあげたけれど、刹那、力士が向かってきて。

私の所に来るまでの数秒間。

相手の動きを、見つめる。

大丈夫。

私なら、出来る。

そう、言い聞かせて、構える。

けれど。

“自分の力を過信するな”

おじいちゃんの言葉を思い出してしまって。

途端、急に力士が怖くなった。

急激に強張る体。

やば、

さかさまに構えているから、負けたら自分に傷がつく。

それが恐怖を促進させる。

駄目、

負ける…………っ！

八角棒が、振り下ろされた時。






キイイイイン！！