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第2章 大坂出張
第8話
しおりを挟む用を足して戻ってくれば、歳三は布団の上で胡坐をかいていた。
「お帰り、璃桜」
「……うん」
「おい」
「……何」
戻ってきても俯いたままの私を不審に思ったのか、歳三は顔色を窺うようにそっと言葉を落とす。
「如何したってんだよ」
「別に」
頑なに歳三の方を向かない私に、貴方は眉を顰めながら体を横にして、頬杖をつく。
「……なぁ、璃桜?」
「……」
その表情のまま無言で布団にもぐりこめば、数秒、間に落とされる沈黙。
そして。
「………何でも、ねぇ」
おやすみ、そう言ってぽんと頭を撫でて。
驚いて暗闇の中で目を見開いた私を見向きもせず、貴方はごろんと背を向けた。
すぐにすぅ、と聞こえてくる、安らかな寝息。
「………何、よ」
――――――私ばっかり、貴方に振り回されて、空回り。
そんな感情が押し込められた、ぽつり零れた言葉は、何処にも行くあてを持たずに。
私と貴方の間を、ふわりと揺れて。
そして、消えた。
いつの間にか、寝ていたらしい。
そのまま、出発の日の朝になって。
特に歳三は何も言わずに、私も何も聞かずに、いつも通りの朝を迎えて。
朝餉の準備をして、からりと開けた部屋の中では、ぼーっと布団の上で煙管を吹かす歳三がいた。
「おはよ」
「…………ああ」
「朝から吸うなんて、身体に悪いよ?」
「うっせぇ」
切れ長の瞳がまだそんなにあいていない所を見ると、寝起きらしい。
「ごはん、出来たよ」
「今いく」
「早くね!」
「ああ」
そして、みんなでいつも通り朝餉を終えて、そうちゃんと交換して、そうちゃんのふりをして……。
そんなこんなであわただしく、夜のことを思い返す暇なんてないまま出発してしまった。
……あの夜、歳三は私になんて言うつもりだったんだろう?
なんて、思い返していれば。
「総司!…おい、聞こえてんのか?」
「へ、ああ、大丈夫。何だって?」
新八さんが私の名前を呼んでいた。
「おい、総司、暑さでやられちまったんじゃないだろーな」
「いやいやいや、全然、元気いっぱいですよー」
実際、湿気でうだるような暑さだけれど、35℃を越えるような気温はこの時代はまだない。
それを考えれば、多分、私が一番暑さに慣れている。
「ならいいけどよ」
「で? 話って?」
あちぃあちぃと愚痴をこぼす左之さんに向かって、実は全然聞けてなかった話を聞くために問いかけた。
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