ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第2章 大坂出張

第5話

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そして。

大坂までは、特に何も問題なく、無事に到着することができた。

壬生浪士組にその旨をかいた書簡も送ったらしい。

此方では、毎日終日市中を見回って、不逞浪士の捕縛を行っている。

私も、そうちゃんの代わりをしているため、見回りに参加しないことはできない。

何もわからないままでは見回りどころではないから、常に試衛館組の誰かと共に行動するようにしている。

芹沢さんもさすがにそこは口を出してこなかったのが幸いして、如何にか誤魔化しながら生活することができていた。

そして、今は、見回りを終えて皆で食事に向かうところだった。



「あっちぃ」

「うるせぇよ、左之。暑い暑い言ってると、余計暑くなるじゃないか」

「だって、あちぃもんなぁ。な、総司」

「……左之さん、話を振るの止めてくれます?」

「総司の癖に何言ってんだよ~。連れねぇなぁ」



左之さんのその言葉に、ぐっと詰まる。

だって。

私、そうちゃんじゃないもの。



「……俺は、別に、そこまで暑くないですから」



知っているのは、近藤さんに山南さん、そして、私がこんなことをする羽目になった張本人の芹沢さん。


そして。



「ね。一くん?」

「沖田……何故そこで俺に話を振る」

「いやあ、それは、……ね?」



齋藤さんに助けてほしいからに決まってるじゃないですか!!

極力誰とも口をきかないように、風邪を引いたことにしているもの。

出かけるときは、平ちゃんに、夏風邪は馬鹿がひくんだよ、と相当馬鹿にされた。

くそう、私がそうちゃんだと思ってるくせに。

そう言えば、とふと思い出す。




それは、出発する前の夜の事。

さっさと寝ろと歳三にさんざん言われ、いつもよりもかなり早く布団に入った。

うとうととまどろみかけた時、隣からの物音に眠りが遠ざかって。

ゆるり、瞼を開く。

その視界の先には、部屋を出ようとする人影が映っていた。



「歳三……?寝ないの………?」



そっと、物音の原因に話しかける。
その声に驚いたように動く人影。



「……っ、まだ寝てなかったのかよ」



その様子に、何だか、違和感を感じた。



「………今、物音で起きたんですけど……」

「……そうかよ、悪かったな」



謝った貴方は、そっと私の頭に手のひらを載せる。

そしてそのまま、ぽんぽんと撫でて。



「いい子で寝てろ」

「歳三は、何処に行くの…………?」



相変わらず夜の優しい雰囲気に、如何してか悲しさが滲んでいるような気がして。

つい、尋ねてしまった。
けれど貴方はふっと笑って。



「………厠だよ」



そう言って外に出ていってしまった。

厠、つまりトイレ。



「………なんだ」



またどっか危ない事でもしに行くのかと思っていた私は、安心して布団にもぐりこむ。

そして、もう一度寝ようと目を瞑った。



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