ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第1章 心と気持ち

第12話

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「……っ」

「いてぇか」

「……ううん、大丈夫…」



当てた瞬間から、熱が手ぬぐいに吸収されていく。



「…………ちゃんと当てとけよ」



そう私に向かって言った歳三は、よっこらせといつにもなく疲れた様子で畳に横になった。

そして、誰共になく言葉を落とす。



「……おめぇさぁ」

「……何?」

「………ちょっとは、落ち着けって。何処のじゃじゃ馬だよ、ったく」



そうやって私を戒める歳三だけれど、口調はとても柔らかくて、どこか陽気で。

何故だかそれが、とても居心地の良いものだったから。

私も、その空気感で言葉を返す。



「………もう19歳ですー。落ち着いてますー」

「何処が落ち着いてんだよ、ほっぺた腫らしてる餓鬼の癖に」

「そんなこと言う歳三だって、」



そこまで言って、はた、と気が付いた。

歳三だって殴られて、頬がうっすらと赤くなっている。



「……歳三」

「あ?」

「この手ぬぐい、使っていい?」



部屋の隅に転がっていた片付けていない手ぬぐいを拾って手に持つ。



「あ? 何に使うんだよ?」

「……ちょっと、待ってて」



そう言って部屋を飛び出した。

井戸に行って、手ぬぐいを濡らす。

ばしゃばしゃと水がかかって、少し袴が濡れたけれど、そんなのどうでもよかった。

十分に手ぬぐいが濡れたのを確認して、また今来た道を戻る。

部屋に入れば、すでに文机に向かっていた歳三が驚いたように此方を向いた。



「……璃桜」

「ただいま」



そして、濡らした手ぬぐいを差し出す。



「はい、これ」



歳三だって、怪我してるのに、自分の事なんてそっちのけで私のことを優先して。



「何だよ、大丈夫だっていったろ」

「嘘、腫れてるもの」



いつも、そう。

貴方は周りの人の事ばかり。自分の事は後回し。

今だって、冷やすこともせずに直ぐに仕事を始めようとしてる。

だったら。



「……私が、貴方のことを一番に気遣う存在になるから」




だから、貴方は、そのままで。

貴方のやりたいことをやってくれればいいと、思う。



「私は、貴方の小姓なんだから」



その言葉と、差し出された手ぬぐいに、その漆黒の瞳を見開いた歳三は。



「……馬鹿」

「……へ?」

「馬鹿っつってんだよ、この餓鬼が………」



まさか、そんな罵詈雑言がくるなんて思っても見なかった。



「ひど、」

「けどよ」



酷い、その言葉を遮られた刹那。



「………っ」



ぼとっと音をたてて手ぬぐいが落下する。

それは―――ふわり、包まれたから。

優しい温もりと。
煙草の香り―――歳三の香りに。



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