ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第1章 心と気持ち

第11話

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「これからも頼みますよ、料理番」

「え……」



その言葉に目を見開く。

それは、私が欲しいと思った言葉そのものだったから。



「ああ、そうだな。璃桜の飯がなくなったら、全く美味しくないご飯に逆戻りだ。もう私はそんな飯、耐えられない……」



山南さんにかぶせるように、そう言っておどけて口を大きく開けて笑う近藤さん。



「……はい」



そんな二人の言葉のおかげで、返事をした口は、自然と緩んで弧を描いていた。

私は本当に小さな人間。

こうやって、周りの言葉や行動に、すぐに一喜一憂するの。

けれど、そのくらい単純な方が、人生生きていて楽しいと思うから。



「ありがとう、ございます」



そんな単純さを受け入れたい。

そう思ってお礼の言葉を唇にのせた。

それと同時に、立ち上がった歳三が私の腕を捕まえる。



「璃桜、来い」

「え……?」



突然のことに面食らっていれば、呆れたように苦笑して。



「……その面、そのままにしとく気か? 冷やしとかねぇといけねぇだろが」



だから、部屋に戻るぞ、そう言って私の腕を引っ張る。



「ちょ、まって……速いよ」

「うっせぇ」



何故か少しだけ機嫌の悪い歳三は、どんどん大股で歩いて行ってしまって。



「ちゃんと冷やしておくんだぞー」



そう声をかけてくれた近藤さんにぺこりとお辞儀をして、すたすたと部屋に戻る歳三の後を追いかけた。

部屋に入った歳三は、私が部屋に入るのと同じタイミングで出てきて。

その手には、手ぬぐいが握られていた。



「濡らしてくっから、待ってろ」

「……え、あ、そのくらい自分でやるよ」

「いいから待ってろ」



そう言ってさっさと出て行ってしまった。

歳三だって殴られたところ、赤くなっているっていうのに。

鬼の副長は、本当に、お人よしなんだから。

ふふ、と笑いが零れる。

歳三の優しさは、どこから来るんだろうか、そんなことを思ってぼーっと部屋を見回せば。

畳に散らばった、何枚かの手ぬぐい。

慌てて箪笥から出したのだろうか、それらは粗雑に散らかっていて。



「……歳三のくせに」



そんなに慌てるなんて、反則だよ、そう思ってぽそっと呟けば。



「何だよ」

「うきゃ」



その声に振り返れば、歳三が戻ってきていた。



「歳三のくせに、何だよ?」

「なんでもないです……」

「そうかよ」



あまり気にしてない様子で手ぬぐいを差し出してくれた。



「ほらよ」

「……ん、ありがとう」



ひんやりと湿らせた手ぬぐいを、熱を持った頬に当てる。




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