ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第1章 心と気持ち

第8話

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「わかったならば、去れ」



私に手をあげたことなど微塵も気にしていない様子で、しっしと手を振る。



「失礼します」



その場の流れについていけていない3人を、湯呑みを持ち上げ、腰を上げることによって退出するよう促した。

私の言いたいことを分ってくれたようで、3人とも芹沢さんの部屋を出てくれた。

ぱたんと襖をしめれば、自然と肩の力が抜ける。

少し落ち着いて、帰路に着いた。

前川邸までの道のり、誰も口を開かなかった。

沈黙の中だったけれど、みんなそれぞれ何かを思っていた。



「おかえりなさ……璃桜!?」

「ど、如何したってんだよ、その頬!! 真っ赤だぞ!」



門をくぐれば、丁度掃除をしていたそうちゃんと平ちゃんの驚く声に、音が戻ってきたように感じた。



「芹沢さんに、叩かれたんだ」



その声に、事実を告げる近藤さん。



「は!?」

「何で!?」

「……それは……」



言いよどんだ近藤さんの声に、艶やかな声がかぶさる。



「……お前らには関係ねぇよ」



その声の主は勿論歳三で。



「は?」



瞬間、そうちゃんの瞳が凍る。



「ちょっと土方さん、いいですか」

「なんだよ」

「こっち来てください」



そう言うやいなや、近くの部屋に歳三を引っ張り込んでしまった。

如何したんだろう、そうちゃん。

今の血相は、キレてる時の顔。

恐らく、私のことを心配してくれてるんだろう事は分る。



「……大丈夫なのに」



その様子を見ながら、口を開けば、ずきずきと痛みを増す頬。

熱を持ってさらに痛みだす頬に、思わず手を当てた。



「璃桜……大丈夫かよ」

「………璃桜さん……」

「大丈夫……なわけないな」



心配そうな表情で此方を覗う平ちゃんに、山南さんと近藤さんの言葉が、胸に暖かくしみ込んだ。



「大丈夫、ですよ」

「嘘つけよ、璃桜痛がりの癖に」



そう言って笑う平ちゃんに、元気をもらえる。



「無理はしないでくださいね」

「本当だぞ。別に璃桜は居るだけでいいんだから、余計なことは考えないことだ」



二人の言葉に、ぱちくりと瞬きする。

居るだけでいい、なんて。まるで私の考えが読めてしまっているようだ。

役に立ちたいなんて、私言ったっけ?

さっきまでの会話を回想するも、言った覚えはない。

てことは。



「………私がそう思ってるの、ばれました?」

「当たり前です。何で無茶なことをするんですか。危ないですよ」

「いやあ、それにしても勇敢だなぁ。俺は言えないぞ、あんなことは面と向かって」



怒るような口調になった山南さんに、よしよしと頭を撫でてくれる近藤さん。



「………ふふ」



思わず、笑みが零れた。

勿論、痛みは強い。

ただ、こんなにも心配してくれる人が傍にいるだけで、心が温まる、痛みが和らぐ。

“手当”の語源通り、人の力ってすごいと、そう思った。



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