ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
8 / 139
第1章 心と気持ち

第7話

しおりを挟む



「芹沢さん、私が付いていく代わりに、一つ、頼みごとがあります」

「おお、なんだ? 言ってみろ」



そう上機嫌で聞きかえす芹沢さんに、図々しくも、言葉をぶつけた。



「……もう、強奪紛いの金策は、止めていただけませんか?」



そう。
まだ彼の金策は続いていた。

そのせいで、周りからの印象は、まだ地面を這っているままで。



だから、此処で私がお願いすれば――――――

もしくは、止まるかもしれない。

そう思って、言葉にしたけれど。



「……何?」



言葉を口に出した瞬間、私の頬が鳴った。

勢いで部屋の隅に吹き飛ばされる。

痛み?
そんなもんじゃない。

目の前に、星が回る、銀紙が降る。

そして、それよりも何よりも。
芹沢さんの瞳が、一瞬で濁ったことに、恐怖を覚えた。



「璃桜さん!」

「璃桜!」

「璃桜!! 大丈夫か!!」



近藤さん、山南さん、歳三が、声を上げたのが耳を掠める。

何か答えようと口を動かせば、ずきりと頬が痛んだ。



「……い、っ大丈夫、」



口の中が、錆臭い。

叩かれた頬は、ジンジンと熱を持って。

けれど、それよりも。



「おい!! 何すんだ!!」

「小姓の癖に我に意見しようとするからだ」

「何だとッ!?」



歳三に、また迷惑がかかってしまった。

その後悔で、胸がいっぱいになる。

たった今、役に立ちたいと思ったばかりだったのに。

これ以上、何かさせるわけにはいかない。

ううん、違う。
私が、何も、させたくないの。

そう思って、熱く痛む頬の熱に耐えながら、今にも立ち上がって芹沢さんのことを殴りそうな彼の着流しの裾を、引っ張って止める。


駄目、歳三。

今怒るのは、得策じゃない。

そう、叩かれた頬を押さえながら目で訴えれば、ぐっと唇を噛み締めて耐えるように目線を下げる歳三。



「芹沢さん、今のは少しばかり………」

「何が悪い。我は小姓のしつけをしただけだ」



山南さんが、やんわりとその行動について諌めようとするも、悪いことをしたという罪悪感も無いらしい芹沢さんには響かない。



「璃桜」

「……っ」



さっきの今だからだろう、名を呼ばれただけで、体がびくりと反応する。



「大坂には来い。わかったな」

「…………はい」



勿論反論など出来るわけなく。
愁傷に、頷いて見せた。



しおりを挟む

処理中です...