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第1章 心と気持ち
第6話
しおりを挟む「ほう? だが、沖田総司のふりをしたって問題はないだろう? 同じ男同士の兄弟なのだから。むしろふりをしてもらわないと、連れていけなくなるだろう」
え?
どういう事なの?
「如何して、そうちゃんのふりをしないといけないんですか?」
「ああ? なんだ、土方、話していないのか?」
何を?
そう思って歳三の方を振り返れば、ぐっと唇を噛み締め、眉根を寄せていた。
その表情を見て、何故だか、悲しくなった。
まるで、私に後ろめたいことがあるような、そんな表情だったから。
駄目。
今はそんなことで凹んでる余裕なんてないんだから。
その気持ちを追い払うように、にこり、口角をあげて笑ってみる。
けれど、心の中は、もやもやが離れてはくれなかった。
私の笑みを見て、何故か何処かが痛いように顔をしかめた歳三は、そっと言葉を落とす。
「……出張に行けるのは、幹部隊士だ。副長助勤以上でなければ、大坂には行けねぇ」
それって。
その理由として、一番初めに頭に浮かんだ思考を、ぐっと押し込める。
だって、普通でしょ?
そう、自分に言い聞かせる。
幹部隊士たちは、初めから志を一緒にしている人たち。
出張なんて大層な仕事、任せられる相手は、そのレベルじゃないと。
けれど、私は仕事ができるわけでもないし、特に腕が立つわけでもないし、本当に些細なことしか役に立てない。
だから。
私が、大坂に行くのは迷惑なんじゃないかって。
それを止めるための理由なんじゃないかって。
そう思ってしまった。
表情が曇ってしまったのだろうか、歳三が言葉を零す。
「璃桜、余計なことかんが……」
「歳三? 別に私は何も思ってないよ?」
そんなの、嘘ばっかり。
現に、少しでも意識を外せば、直ぐに不貞腐れた表情になってしまうだろう。
そう、誰かに“余計なこと”を言われてしまったら、そこから抜け出せなくなるの。
嘘でもいいから、笑え。
ここで笑ってなければ、何もできないただの女の子になってしまう。
そんなのは、嫌だ。
私だって、壬生浪士組の一員だもの。
歳三の、皆の、役に立て。
役に立つには、如何すればよい?
そう思って必死で考えていれば。
「だから、璃桜、お主は沖田総司の代わりとして来い。良いな?」
そう、芹沢さんに念を押される。
近藤さんも、山南さんも、歳三も、何も反論できないようで。
「………はい」
そう、頷いた瞬間、はっとひらめいた。
皆の、役に立てる、一つの案を。
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