ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
5 / 139
第1章 心と気持ち

第4話

しおりを挟む



「失礼仕る」



そう一声かけて、芹沢さんの部屋の襖を開ける近藤さん。

前もって人数分のお茶を用意した私も、その場にいた。



「ああ、近藤か。何の用だ」

「大坂からの出動要請の件だ」



近藤さんが話すのを聞きながら、お茶を置いていく。



「誰が行くのか、決めたということだな?」



そう言ってじろりと、此方を向いた。

わざわざ此方を見るなんて何だろうとは思いながらも、役割を果たしたと思って、畳についていたひざを上げる。

そして、出ていこうとお盆を抱えなおしたら、突然名を呼ばれた。



「璃桜」

「は、はい」



芹沢さんの声に、その瞳に、吃驚して、そして何故か体が強張った。

殿内さんの件から、少しでも狂気を帯びた瞳を見ることが恐ろしい。

だから、今回の緊張も、一種の防衛本能のようなものだろうか。



「此処に居れ」

「……でも」



私は、お茶を運んできただけだし、大坂に行くわけでもないから、必要ないと思うんだけれど。



「いいから、居れ」



何度も繰り返す芹沢さんの言うことを聞いた方がいいのか、独りでは判断が付かなかったから、歳三の方に視線を送った。

不本意そうな表情ながらも、ひとつ小さく頷きを返してくれたので、部屋の端っこのほうに移動して、邪魔にならないように正座していることにした。



「それで? 誰を連れていくことにしたのか?」

「ええと、山南さん、源さん、総司、新八、一、それと左之助を連れていこうと思うんだが、其方はどうされますかな? 芹沢さん」

「我は、行くやつらなど、どうでもよい。どうせ新見は留守番だ。平山と野口が行くだろう」



それほど興味もなさそうに、ふんと一つ鼻で笑う。

実際、本当に興味がないのだろう。



「ならば、これで話を進めてもよろしいですかな。では、大坂の詳細が決まり次第、また此方に話に参ります。今日は、この辺で失礼します」



近藤さんもそれを感じとったのか、早々に退出しようと腰を上げた。

勿論、山南さんと歳三も、近藤さんに倣う。

なんだ、これで用事は終わったの?

その場にいて、少し構えていた分、なんだか拍子抜けしてしまった。

特に何もなくて良かった、そうほっとして腰をあげようとした時。



「少し、待て」



芹沢さんが、その場にいる全員を呼び止めた。

如何したのだろうと思い、ふと見た芹沢さんの顔。

その唇は、歪んだように弧を描いていて。

まるで、何かたちの悪い悪戯を思いついたような。

はっとして芹沢さんの瞳を見る。

いつも通り、濁って居るのだろうか、それが気になったから。


けれど。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

新撰組のものがたり

琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。 ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。 近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。 町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。 近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。 最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。 主人公は土方歳三。 彼の恋と戦いの日々がメインとなります。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

処理中です...