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第1章 心と気持ち
第4話
しおりを挟む「失礼仕る」
そう一声かけて、芹沢さんの部屋の襖を開ける近藤さん。
前もって人数分のお茶を用意した私も、その場にいた。
「ああ、近藤か。何の用だ」
「大坂からの出動要請の件だ」
近藤さんが話すのを聞きながら、お茶を置いていく。
「誰が行くのか、決めたということだな?」
そう言ってじろりと、此方を向いた。
わざわざ此方を見るなんて何だろうとは思いながらも、役割を果たしたと思って、畳についていたひざを上げる。
そして、出ていこうとお盆を抱えなおしたら、突然名を呼ばれた。
「璃桜」
「は、はい」
芹沢さんの声に、その瞳に、吃驚して、そして何故か体が強張った。
殿内さんの件から、少しでも狂気を帯びた瞳を見ることが恐ろしい。
だから、今回の緊張も、一種の防衛本能のようなものだろうか。
「此処に居れ」
「……でも」
私は、お茶を運んできただけだし、大坂に行くわけでもないから、必要ないと思うんだけれど。
「いいから、居れ」
何度も繰り返す芹沢さんの言うことを聞いた方がいいのか、独りでは判断が付かなかったから、歳三の方に視線を送った。
不本意そうな表情ながらも、ひとつ小さく頷きを返してくれたので、部屋の端っこのほうに移動して、邪魔にならないように正座していることにした。
「それで? 誰を連れていくことにしたのか?」
「ええと、山南さん、源さん、総司、新八、一、それと左之助を連れていこうと思うんだが、其方はどうされますかな? 芹沢さん」
「我は、行くやつらなど、どうでもよい。どうせ新見は留守番だ。平山と野口が行くだろう」
それほど興味もなさそうに、ふんと一つ鼻で笑う。
実際、本当に興味がないのだろう。
「ならば、これで話を進めてもよろしいですかな。では、大坂の詳細が決まり次第、また此方に話に参ります。今日は、この辺で失礼します」
近藤さんもそれを感じとったのか、早々に退出しようと腰を上げた。
勿論、山南さんと歳三も、近藤さんに倣う。
なんだ、これで用事は終わったの?
その場にいて、少し構えていた分、なんだか拍子抜けしてしまった。
特に何もなくて良かった、そうほっとして腰をあげようとした時。
「少し、待て」
芹沢さんが、その場にいる全員を呼び止めた。
如何したのだろうと思い、ふと見た芹沢さんの顔。
その唇は、歪んだように弧を描いていて。
まるで、何かたちの悪い悪戯を思いついたような。
はっとして芹沢さんの瞳を見る。
いつも通り、濁って居るのだろうか、それが気になったから。
けれど。
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