蝶々結びの片紐

桜樹璃音

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第5話

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「当たり前さ、俺が女だってわからないはずねぇだろう? なんたって、据え膳くわぬは男の恥、射止めた女は数知れずの、この原田左之助様だぜ!」



 ……。一言で表せば、見境なしの女好き。左之さんは、これがなければもっと女が寄ってくるんだろうな、なんて思ったのは何度目か。

 いつもの調子で歌うように言った左之さんは、緩く、彼女に向かって手を伸ばしていた。

 だけど、その手は彼女に届く前に、違う男によって、躱される。



「さぁて、それじゃあ、紹介します」



 彼女の横で頭を傾けたから、総司の色素の薄い髪が、さらりとその華奢な肩の上で重なる。そのまま彼は、ぐっと彼女の頭を抱え込むように肩に腕を回した。



「僕の双子の妹、沖田璃桜おきたりおです」



 彼女の実の兄、沖田総司おきたそうじ。認めたくはないけれど、きっと。沖田総司は、この壬生浪士組の中で一番鋭い剣を使う。いつもの、のらりくらりとした空気は無い。まるで何かに執り憑かれているような、そんな攻撃をする。

 そんな総司と同じ色の瞳を揺らして、彼女は口を開く。




「え、えと、そうちゃんがいつもお世話になってます……?」



 ……ん?
 何て言った今、“そうちゃん”???

 3人とも同じことを思ったようで、まるで互いの心の内を代弁するかのように口々に呟いた。



「総司が、そうちゃん………?」

「泣く子も黙るあの稽古をする、一番隊組頭、沖田総司が、そうちゃんって呼ばれて、そっくりな顔の女と言い合いしてるぞ………」

「やばい、俺、耐えらんねぇ、……………ぶははははは!!!!」



 左之さんが大声で笑い出した。うるせぇ。鼓膜がイッたかと思ったじゃねぇか。



「耳元でいきなり大声出すなよ、この馬鹿」

「ああん? 平助、そんな大口たたいってと、璃桜に餓鬼だってことばらすぞコラ、ふでお…」

「!」



 バチン!!



「いってぇ!!!」



 くだらない発言を止めるため、いろいろな感情をこめて、無言でその筋肉質の腕を平手打ちしてやった。余計な事言ってくれてんじゃねぇ。あと、軽々しく名前呼び捨てにしてんじゃねぇよ。俺もまだ呼べてねぇんだぞ。

 言いたいことはいろいろあるが、今は彼女の前だ、遠慮しといてやろう。



「はいはい、喧嘩は終わったか? 早くいくぞ、そろそろ土方さんがキレる」



 ぽん、と音を立てて俺の肩に手を乗せ、新八ッあんが皆に向かって声をかけた。こんなとこも、兄ちゃんみてぇだな。左之さんとは大違いだ。



「行くよ、璃桜」

「うん」



 総司に手を引かれて、俺のすぐ横を彼女が通り過ぎた。

 ……いいにおい。

 彼女が通り過ぎた瞬間にふわりと薫る、甘い香り。掠めた匂いに、ドッ、と音でも立てるように拍動する心臓。

 ああ、駄目だわ。俺、もう引き返せねえわ。



「ああああああの」

「あれ? どしたの平助。早く行こうよ」



 璃桜の手を引く総司が立ち止まり、自ずと璃桜も立ち止まって、きょとんと此方を伺う。璃桜のまあるい瞳に、自分が映り込んでいると思うだけで、緊張が身体に走る。

 きっと今、俺の顔は真っ赤になっているんだろう。



「あの、俺、」



 その瞳から発せられる視線が、交錯、する。

 瞬間、唇から感情が零れ落ちた。



「……………………惚れた!!!!!」








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