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カウントダウン
Epilogue
しおりを挟む黎明。
今日、これから、十字架の前で、俺達は誓う。
「まさか、自分が誰かに祝福される日が来るなんて、思わなかった」
「そうね、高校の時の私達に教えてあげたいわ」
純白のドレスに身を包んだはぐみは、俺に向かって微笑みを見せる。きゅう、と胸が鳴く。
「きっと、これからも、たくさん苦しい事があるわ」
でも、と彼女は俺の蜂蜜色の髪に手を伸ばして、そっと掻き混ぜる。
「だからこそ、共に生きる事を、祝うのだわ」
傾めに差し込む陽光が、はぐみの姿を照らす。きらきらと煌めく彼女が、まるで夢幻に思えてそっと腕を伸ばした。
彼女のぬくもりが指先に灯る。笑い声が耳朶に響く。ふわりと花の様な香が薫る。五感を全部満たしたくて、その名を呼んだ。
「はぐ」
「……すぐり?」
「ありがとう」
俺と、出逢ってくれて。
俺の呪いを、解いてくれて。
――……紅井すぐりの事を、見つけてくれて。
はぐみはただ、黙ったまま、その瞳を三日月型に弛めて、笑った。
「新郎、紅井すぐり。貴方は、桑野はぐみを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「……はい、誓います」
声が、震えた。それ程に、俺達にとって、この誓いは大きな意味を持つ。
「新婦、桑野はぐみ。貴方は、紅井すぐりを夫とし、喜びのときも、悲しみのときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「……はい、……誓います」
彼女の声にも、涙の色が混じっていた。
自分達にはもう、未来も、希望も、何も無いと思っていた。けれど、それは間違いだった。
“一緒に死ぬ為に、共に――……生きる”
その約束が、俺達に、新しい希望を創った。
新しい未来を、今、ここで誓うのだ。
そっとはぐみのベールを外した。俺を見上げるのは、美しい睫毛で縁どられた瞳。漆黒に閉じ込められた陽光の眩しさに目を眇めて、そのまま彼女の顎に指を滑らせた。
「――……愛してるわ、すぐり」
「――……愛してるよ、はぐ」
愛の言葉を囁いて、そうして、その艶やかな唇に、口づけを落とした。
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