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十月、鍵、生きたい
第11話
しおりを挟む俺の悪いところも、屑なところも、全部全部ひっくるめて、好きだというのか。
如何して、彼女はこんなにも。
ぼろぼろと頬に涙を零して、子どもの様に泣く俺を見て、はぐみはそっと俺のぐちゃぐちゃの泣き顔を覗き込む。そして、その唇から言葉が落ちてくる。
「私は、すぐりに救われたわ」
すぐりのお蔭で、自分の生きる意味を知った。自分がやって来た事の意味も、これからの自分の生き方も、今自分が頑張っている事も、決して無駄じゃないってわかった。
「そうして、すぐりと一緒に居る時間を、“しあわせ”と呼ぶんだって、そう決めたの」
その言葉に、もう一粒、俺の目じりから出て来た涙が頬を滑る。
それは奇しくも、俺に呪いをかけた彼女と同じだった。
だから、俺は、はぐみを育美の代わりにしているだけなのでは、と思い込んで、そうして、自分の心から目を逸らした。けれど、それは、間違いだった。
俺は、もう既に彼女の事を彼女の身代わりにはしていなかった。育美の身代わりじゃなくて、はぐみをちゃんと大事に、大切にしたいと願った。
俺には、はぐみが必要だと、心の何処かでは知っていた。
けれど、それを見つめて拾い上げる事は、育美を裏切る事だと思っていた。だから俺は、自分で、自分から、育美の言葉を呪いに変えた。
「すぐり」
そう言って彼女は、俺に向かってその右手を差し出した。月の光の中で、彼女の手のひらは、いつにも増して白く輝いて見えた。
「お願いが、あるの」
その言葉に、彼女の手のひらから視線を上げた。風が彼女の髪を揺らして通り過ぎていく。
「何……はぐ」
じっと、はぐみの瞳を見つめた。彼女の口から落ちてくる言葉を、ただ、待っていた。見つめる俺の瞳を見返して、彼女は唇から言葉を落とした。
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