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十月、不条理、反抗
第4話
しおりを挟む上履きのまま、部活棟へとはぐみを引っ張った。観念した様に俺に腕を引かれるがままのはぐみと、タンッと音を立てて階段を上がる。
辿り着いた先は、5階、いつもの巣窟。
「鍵、あけて」
「……っ」
無言で定期入れの中から小さな鍵を取り出した彼女は、鍵を差し込んでシリンダーを回す。ガチャン、と言いう音がして俺たちの巣窟が解放された。僅かに開いた隙間にはぐみを押し込んで後ろ手に鍵をかけた。
驚いたように俺を見上げるはぐみに、間髪入れず、噛み付いた。
「……っ」
息をする間も与えたくない。ただひたすらに、その唇を貪った。
「っ、んふ、……っ」
息が苦しくなったのか、彼女はしがみ付いた俺のワイシャツ越しに、トントン、と胸を叩く。僅かに唇に隙間を開けてやれば、懸命に酸素を取り込もうとして、甘い声を零す。
「ぁ、……っん」
がくん、とはぐみの膝から力が抜けた。必死にしがみ付いて立っていようとする彼女は、荒い息を繰り返して、その瞳を涙の膜で覆う。そんな彼女の身体を支えながら、ソファへと押し倒した。ひとつに結んである黒髪を片手で解いたら、真っ直ぐにソファの上に散らばった。
「すぐ、」
「うるさい」
「っ、」
何度も、何度も、数えきれない程に唇を重ねた。甘くて、しょっぱくて、柔らかくて、そうして、俺を取り込もうとする虚無から護ってくれるその感触を、俺の唇に刻み込みたくて仕方なかった。その目じりから零れる涙まで、全部、俺の物にしてしまいたかった。
彼女の涙を、指で掬って舐めた。
愛情の、味だと思った。恋慕の、味がした。
もう我慢ならなかった。
「……はぐの、所為だから」
熱が、滾る。無意識のうちに彼女の衣服に手を掛けていた。ネクタイをしゅるり、と外して、ワイシャツのボタンを外す。
下着のホックがぱちん、と音を立てて外れて、露わになった胸に自分の手を触れさせた。そっと動かせば、はぐみは驚いたようにその涙で濡れた瞳を揺らす。俺の手に伝わってくる弾力、それは、初めて逢ったあの屋上以来の感触。
「やっ、……ちょ、すぐり……っ」
「黙って、はぐ」
「嫌、だっ」
身体を捩って逃れようとするはぐみの胸の先端を弾いた。
びくん、と身体を小さく痙攣させたはぐみに、そっと口づけを落とす。
「大丈夫だよ、はぐ」
「……っ、」
そっと手を動かす俺に、彼女は、ぼろり、と涙を零した。そうして、消えそうな声で、俺を拒絶する。
「嫌、……やだ、……すぐり……」
俺はその声を無視して、プリーツスカートを捲り上げ下着の中に手を入れた。ぬるり、とした感触が指に触って、はぐみが小さく声を零す。
そっと撫でる。何度も、その指先で、触れる。甘い声が、俺の脳を痺れさせる。彼女が痙攣する度に、黒髪がソファの上で波打つ。
そっと、その湿った場所に侵入して、僅かに指を動かした。彼女は俺の中指を締め付ける様に、熱をもって、動く。
はぐみは、ぎゅっと俺のワイシャツを掴んで、必死でその感覚から逃れようと、眉を顰めて、唇を噛み締めていた。俺が見ている事に気が付いたのか、彼女は自分の顔をその小さな両手で覆った。
「……はぐ、隠さないで」
「っ、」
泣いているその顔を見ていたくて、空いている方の手で、腕を絡め捕った。そうして、その顔を見下ろす。
頬を真っ赤に染め上げて、ぼろぼろと涙を零すはぐみは、酷く綺麗で、とても煽情的だった。
もっと、泣かせたくなった。
もっと、鳴かせたくなった。
荒っぽく、唇を重ねた。
同時に、指で掻き混ぜた。
彼女が一際高い声を上げて、大きく痙攣するまで、時間はかからなかった。
「も、……や、嫌……、」
懸命にその細い腕で、俺の胸を押して拒絶する彼女に、次々に快感を教えた。
何度も何度も、ぴくん、と身体を揺らして、小さな嬌声を零すはぐみに、俺も我慢の限界だった。そっと指を抜く。俺の手は、彼女が零した欲で塗れていた。
「……はぐの、所為だよ」
もう一度、小さく呟けば、彼女はその火照った身体の何処にそんな力があるのか、という程の強さで、俺の手を掴んだ。
そうして、じっと、その涙と熱で潤んだ瞳で、俺を睨む。
「すぐり、……や、めて……私……こんなの、嫌だ」
俺の事を下から睨みつけながらも、耐え切れずに涙を零して、俺の手を掴んで拒絶を繰り返すはぐみが、――……あの日の俺を必死で受け入れようとした育美に重なった。
「っ」
刹那、漸く、我に返った。
俺は、何を。
自分が、分からなかった。己が、理解できなかった。どんなに抱こうとしても、はぐみを抱く事は出来なかったというのに、如何して。
手を離せば、ぎゅっとワイシャツの前を震える手で合わせて、ソファの上で俺との距離をとるはぐみ。その身体は、酷く小さくて、その涙に濡れた瞳は、怯えた様に俺を見上げていた。
「……はぐ、」
「来ないで……っ」
そっと腕を伸ばした。けれど、本格的な拒絶に、俺の指先が彼女に届く事は無いと知った。
行先の無くなった腕を音もたてずに下ろして、俺は笑う。
だって笑うしか、無いだろう?
「……ごめん」
誰ともなしに呟いた謝罪は、きっとはぐみには届かない。
「……すぐり」
「……何」
「……出てって」
涙でぐちゃぐちゃの声で、はぐみは俺の事を睨みつける。その視線が、酷く、痛い。
「……ごめん」
如何して、こんなにもはぐみの拒絶と怯えの視線が心に刺さるのだろう。何故、こんなにも育美に囚われている事を実感しなくてはいけないのだろう。俺は、如何にかしてしまったらしい。
巣窟から一歩を踏み出して、バタン、と扉を閉めた。
途端、部屋の中から小さな嗚咽が聴こえてきて、俺は、耳を塞いだ。
けれどその声は、車の中でも、家に帰ってからも、俺の脳裏から離れてくれることは、無かった。
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