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十月、不条理、反抗
第2話
しおりを挟むだから俺は、はぐみとの欠片を探す為に、授業に出るようになった。
今までとは明らかに異なった頻度で珍しく授業を受け続ける俺に、担任の女の先生は呆れたように笑う。
「紅井くん、如何したの、急に真面目になっちゃって」
「え、ヤダなぁ、先生、俺、もともと真面目ですよ」
いつもの様に軽口交じりにそう答えれば、彼女もサラリ、と尋ねてくる。
「嘘だぁ、何、何かあったの」
その瞳に心配の色を見て取る。じっと見つめれば先生は少し困ったようにパッと目を逸らした。その視線の揺らぎに、ああ、と思う。
どうせこの人も、俺に学校辞められたりしたら困るだけなんだろうな、と卑屈な感情が脳裏を支配した。
きっと見ているのは、“紅井すぐり”でしかない。やっぱり誰も、俺の事など見つけてくれない。
ぎゅっと手を握った。毎日の様に触れていた俺を見てくれる人の感触は、そこにはもう、残っていない。胸にぱっくりと開いた傷口を誤魔化す様に彼女の欠片を集めているだけ。
「何も、無いですよ」
アンタに理解できるような事は、絶対に、何も無い。
だから、言ったって仕様が無いだろう?
詮無い事を言ったって、始まらない。だったら、言わないで、こうして我慢していれば、世間はしあわせに廻っていける。
ただ俺が、不条理を自分の中で条理に変えてしまえばいいだけ。
「あら、そう」
何度も否定を繰り返せば、先生は少しだけ首を傾げてひとつ笑って俺に背を向けた。そのまま階段を登って、職員室の自分の席に戻っていく。それを見てやっぱり、と思って乾いた笑いが零れた。
ほら、アンタも、そうやって去っていく。
興味があるのは、“紅井すぐり”。
堂々巡りの様な思考に囚われて、そこから抜け出せなかった。酷く太くて重い鎖のように、この名前が俺を縛り付けて放してくれなかった。
ただ、はぐみに逢いたかった。この手で、はぐみの熱に触れて、この溢れ出す虚無を宥めたいと思った。
けれどそれは、やっぱりはぐみの事を俺の身代わり人形にしているのと同義だった。
俺にとっての大事は、はぐみにとっての悪にしかならない。
だから俺は、離れたというのに。離れても尚、はぐみの事が脳裏から離れないのだ。
「はは」
冗句にもならないそんな文章が思い浮かんで、そうしてもう一度、乾いた笑いが足元に落ちて行った。
それを踏みつける様に、ぎゅっと重たい脚を持ち上げて、そうして、音を立てて、下ろした。
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