紅井すぐりと桑野はぐみ

桜樹璃音

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八月、正解、禁断の言葉

第7話

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「私、ひとつだけ、持ってるものが……あったわ」



 初めて、自分の手で選びたいものが出来た。この手で、掬い上げて、そうして、抱き締めたい気持ちが在った。

 それは、他人の物差しで測られたならば、間違いなく不正解だった。

 けれど、私はこれを、私の物差しの不正解にはしたくない。これが、どんなに我儘だとしても、如何しても。

 この虚偽と欺瞞で創り出した偽者不正解の縁を、本物正解の関係に出来るのならば、他人の正解なんて、要らない。



 笑って抱き締めてくる腕に、私の中のちっぱけな勇気をありったけ搔き集めて、そっと手を添えた。「如何したの、」と笑いながら私の頬を撫でるすぐりが愛おしくて仕方なかった。

 じわり、と世界がまた、歪んだ。

 彼はあの日、言った。






 “俺の事、好きになったら、終わりだから”





 終焉を迎えてしまうかもしれない。あの日咲いて散っていった花火の様に、無くなってしまうかもしれない。

 けれど、この関係不正解に終焉を与えなければ、私達は、正解には成れないのだ。

 そう思って、喉に力を入れて、押し出した。



「すぐり、聞いて」

「何、はぐからそんな事言うの、珍しいじゃん」



 そう言って笑う彼の三日月型の目を見据えた。アッシュグレイに、月の光が閉じ込められていた。まるで、永遠の、少年。

 綺麗だな、と思った。もう永遠に、見れなくなるのかな、とも思った。

 そうして、私は、震える声で、
 二回目の禁断の言葉を、

 今度は、聴こえる様に――……口にした。








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