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八月、正解、禁断の言葉
第6話
しおりを挟む「はぐはさぁ」
頭の上から優しい低い声が降ってくる。それがこんなにも、心地よい。
「自分が何もないって、そう言ったけどさ、そしたら、頑張ってるはぐはどうなるの?」
落ちてくる言葉に目を見張った。
「毎日さ、勉強ばっかして、なんだかんだちゃんと下校時刻にはまっすぐ家に帰って、生徒会の仕事も真面目にして……そういうはぐも、全部、馬鹿馬鹿しいはぐなの?」
優しく落とされるその言葉に、何度も何度も歯を食いしばって、涙を堪える。
「なかなか周りの人の期待にちゃんと応えられる人って居ないと思うけどな。真面目にやってるじゃんか。毎日。俺はそれだけでも、立派な事だと思うけど」
そう言って、軽く笑ったすぐりは、もう一つ、と言って、ぎゅっと私を抱く腕に力を込める。
「とりあえず俺は、はぐがいるから、毎日楽しんだけど。はぐに会えなくて、でもここに居ればはぐが来る気がして、毎日入り浸ってんだけど」
「うそ、……」
「嘘つかないよって言ったじゃん、俺」
そう言って、彼はもう一度笑う。くすぐったそうな笑いが、私の髪を揺らす。
「それじゃあ、はぐの生きる意味にならないの?」
もう駄目だった。睫毛を超えた涙が、ぼろりと溢れた。感情が飛散した。
如何して貴方は、こんなにも、私の望むものをくれるのだろう。
静かに涙を流す私の感情の雫をその長い指で掬って、彼は笑う。
「あーあ、可愛いな、はぐ。こんな格好で電車乗ったら駄目じゃん。襲いたくなっちゃう」
そんな彼を見上げて、涙声で、言った。
「すぐり、」
「ん?」
「――……貴方は、もう充分、私の、生きる意味よ」
あの日、彼は言った。
“アンタに、生きる意味を、あげる”
間違いなく、彼は、私に生きる意味をくれた。
始めは、飼い主の様に私の感覚を操って生きている感覚をくれた。
それから、私の生きる感覚がどんな時に表れるのかを知って、そうして、私が生きる感覚を感じられる機会を創造してくれた。
私は、死なない為に、不正解だと知りながらその感覚に必死にしがみ付いていた。
けれど、いつの日か気が付けば、すぐりと一緒に居る事が生きる意味に成り果てていた。すぐりこそが、私の生きる意味そのものだった。
貴方と離れた一カ月、私の脳裏は貴方だらけだった。
抱いてもらえない事だけで、あんなにも悔しかった。
貴方の匂いに包まれただけで、涙が溢れ出しそうだった。
ああ、私も、ちゃんと。
生きる為に関係を大事にするのじゃなく、ゆーちゃんやその友達の様に、この関係があるから、生きたい、と思えているじゃないか。
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