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七月、祭り、気づき
第4話
しおりを挟む電子的な女の人の声で流されるアナウンスが響くホームに、目的の電車が滑りこんでくる。
ピンポン、と音を立てて電車の扉とホームゲートが開く。降りてくる人を避けて、そうして二人で同じ電車に乗り込んだ。
夕方の電車は、帰宅途中の人がわんさか乗っていて、私達は漸く空いた隙間に身体を滑り込ませる。ちょうどドアと座席が垂直に交わるラッキースペースに入り込んだすぐりは、私の腰に左腕を回す。ぐっと引き寄せられた。
「せま……」
少しだけ不機嫌そうに歪んだ瞳が、すぐ上にある。目の前には同じワイシャツに、ネクタイ。
唐突に伸ばされた腕。すぐりの長い指が、僅かに私の髪を掠めたと思ったら、そのまま真上の吊革に絡んで摑まる。
奇しくも頭をその腕に凭せ掛ける様な形になった。その事実が私を酔わせる。ふわふわと、包みこむ。
「……はぐ」
「すぐり?」
小さく落とされた囁き声に、そっとその顔を見上げれば、そこには艶やかに唇で弧を描くすぐりが、その緑がかった灰色で私を見降ろしていた。
その瞳は何処か悪戯っ子の様に歪んでいて、その瞳に視線を絡め捕られた私の身体は、ずくん、と熱を身体に集める。
「キスしてい?」
「……駄目」
からからと笑いながら、そんな事を尋ねてくる。答えなんて、有っても無くても無視する癖に。
そう思ったけれど、すぐりは何故か、口づけを落としては来なかった。代わりににまりと笑って、吊革を放したその手で私の頬を撫でる。
ゆっくりと、時折優しく、そして、時折爪を立てて引っ掻く様に触る。
その感覚の所為で、呼び起こされる狂った感情。中心に集まった熱は発散されずに静かに沈殿していく。思わずぎゅっと唇を噛み締めた。
そんな私を見て、すぐりは非常に楽しそうに笑う。
「気持ちいい?」
あまつさえ、そんな言葉を囁くように耳朶に落としてくる。
「……」
そんなの、言わずもがなである事くらい、お見通しだろうに。
電車内のアナウンスが、私達の降車する駅名を流し始める。お出口は右側です、という業務的な台詞がすぐりの手を止めさせた。
「残念、続きはまた今度ね」
そう言って、ふふっと笑う彼。私の熱はたまりにたまって、もうはち切れそうだった。
「……意地悪」
指先にはすぐりのシャツ。身体の中心に集まったその熱さが喉を超えて感情になって転がり落ちた。思わず零した言葉にすぐりのアッシュグレイの瞳が大きく開かれる。
それと同時に開かれた電車の扉。吐き出されるように降りた私を摑まえて、そうして、彼はホームの先端へと引きずっていく。
縺れた足を懸命に動かしてついていけば、エレベーターの裏側に連れていかれた。
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