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七月、祭り、気づき
第2話
しおりを挟む「すぐりの嘘つき」
「そう言う事言うの? はぐは悪い子だなぁ」
斜めに差し込む落陽が、私達を包む。何処かで、ひぐらしが、鳴いている。
「大嘘吐き、私の事、好きで仕方ない癖に」
じっと睨むようにその東雲色に染まった瞳を見つめながらそう言えば、ははっと乾いた笑いを零してすぐりは歯を見せる。
「俺が先に、聞いたんだけどな?」
そう言って私の頤に手を滑らせて顎を持ち上げる。冷たい指が、ぞくり、と肌を粟立てる。
「はぐは?」
「……秘密」
「あ、そ」
そう言ってぱっと手が離れる。名残惜しい、と脳裏に浮かんだその5文字をぎゅっと握りつぶすように、半分だけボタンの止められたワイシャツを握った。
「隠し事なんて、させる訳ないよね?」
そう言って彼は、そのネクタイを私の首に回す。
「っ」
締め付けられる、と思って身体が跳ねたけれど、「ばーか」と悪魔の様に笑って、しゅるり、と襟の下に通して、そっと結び始める。
布がこすれる音が何度か響いて、そして、几帳面な三角形が表れる。
「でーきた」
やっぱり、これは首輪みたいだな、と思った。彼のものだという証で、繋がれているというしるし。
「はぐ、今何されると思ったの?」
「……っ、別に」
「また秘密なの?」
けらけらと笑って、未だ留まっていないボタンをゆっくりと合わせていく。スカートを通す為に、足を上げられて、そして、器用な指がそのプリーツスカートのホックを止める。
「まぁ、何でもいいけど」
そう言ってまた笑う。何だか今日のすぐりは、酷く上機嫌だ。その理由は次に落ちてきた言葉で理解した。
「あ、はぐ。この後祭り行くから」
「……は?」
「お ま つ り」
一文字一文字区切ってはっきりと言う。いや、それは聞こえている。私が言った疑問がかかる場所は、そこじゃなくて。
「……この後?」
「うん」
あっけらかんと頷くすぐりに、無駄だと思いながらも、おずおずと反抗してみる。
「……明日から、テストだけど」
「だから何?」
撃沈。
「……え、勉強、したい……」
「真面目だなぁ、はぐちゃんは。さっきあんなにしてたじゃない」
「……そうだけど、でも」
確かに、今日は私の方が先にここに来ることが出来た。だから、ここに来てからずっと勉強していた。
結局、何故か睨めっこする流れに持ち込まれて、睨めっこに負けた私は、罰をもらった。というか、あの行為は、私と貴方のどちらも利害が一致して為されているものなのだから、罰になんてなりやしないのだけれど。
むしろ、テスト1日前に勉強出来ないほうが、私にとってはよっぽど罰だわ。
そこまで考えて、うむむ、と唸る。それを見て、すぐりはまたけらけらと笑い声を落とす。
「じゃあいいよ、お祭り行った先で単語帳と睨めっこでもしてれば?」
心底楽しそうに笑いながら、帰り支度をした私の腕をいつもの様に摑まえて、そして、いつも通りに引っ張って、旧生徒会室を出た。
梅雨が明けそうで明けきっていない、ムッとした空気が、私達を包む。
「どのお祭りなの」
「秘密」
部活棟を出れば、東雲色の夕焼けが私達を迎えた。思わず見惚れるけれど、それすら許されずに、すぐりに引っ張られる。腕を掴まれたまま、校門を出て、道路を歩く。
そして、いつもと何かが違うと思った。けれど、その答えが見つからなかった。
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