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第8章 局中法度
第16話
しおりを挟む紅くなる顔を片手で隠しながら、しっしと右手で追い払う仕草をする様子を見て、にまり、と笑う。
「もって来まーす」
「ああ、渋くないのな、渋くないの」
「はーい」
ぶつぶつつぶやく歳三を置いて、部屋を出る。
勝手場に向かいながら、今しがたの話を思い返した。
“護りたい”
そう、土方歳三は、そんな願いを込めて、局中法度を作ったんだ。
歴史に残されている文章からは、そんなこと、微塵もわからない。
人が、何を考えて、何を思って。
何を願って、行動していたのかなんて、分る筈もなくて。
「……芹沢さんも、何か考えがあるのかなぁ……」
そう思うけれど、思い出すたびに、あの淀んだ瞳が浮かんできてしまって、理由など何もないかのように思ってしまう。
そんな事を考えながら、上の空で縁側を歩いていれば、山南さんが前から歩いてくるのが見えた。
「あ、山南さん」
「また会いましたね、璃桜さん。考え事ですか?」
「……はい、ちょっと」
「上の空で柱などにぶつかって怪我をしないように気を付けてくださいね」
そう私に柔らかく忠告して、にっこりと笑い、では、と歩いていこうとするその姿を見たら、何故か。
「山南さん!!」
瞬間、羽織の裾を掴んで引き留めてしまっていた。
「如何しました? 璃桜さん」
「あ、と……」
咄嗟に呼び止めてしまったはいいけれど。
何かお仕事があるんじゃないだろうか。
相手のことも考えられずに、恥ずかしい。
自分の様子を傍から見たら、置いてかれそうになっている子どもみたいに見えるだろう。
「大丈夫ですよ、少しお話しましょうか」
察しの良い山南さんは、私が焦っているのを見て取ったのか、そっとその懐から何かを取りだす。
「あ、それ……」
「総司の隠し饅頭です。ここに座って、いただいちゃいましょうか」
内緒ですよ、そう言って唇に人差し指をたて、おちゃめに笑う山南さんに、ふっと笑いが零れた。
「さっきは助言ありがとうございました。お礼になるかわからないですけど、このお饅頭二つどうぞ」
「それ、そうちゃんのじゃ?」
「あはは、そうですね、これでお礼はおかしいですね」
また今度何か買ってきます、そうやって静かに笑う山南さんは、ふと、瞳に真剣みを宿して。
「それで? 如何しました、璃桜さん」
そう、私に尋ねてきた。
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