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第8章 局中法度
第10話
しおりを挟む十数日後。
「芹沢さんがまたやったのか!?」
「ああ、そうらしい」
近藤さんの部屋にお茶をはこんでいけば、そんな声が聞こえた。
「お茶です」
「ああ、璃桜さんか」
部屋に入れば、山南さんと、源さんが、険しい顔をして近藤さんと話している様子だった。
「山南さん、源さん、こんにちは。今お二人の分もお茶持ってきます」
近藤さんのぶんしかお茶を持ってこなかったため、一度退出して勝手場に戻ろうとすれば。
「璃桜さん」
山南さんの柔らかい声に、呼び止められた。
「はい?」
「璃桜さんにも、お話を伺ってもよろしいですか?」
「え、私ですか?」
「はい、勿論。璃桜さんの隊士指南の様子や、そのほかの仕事を見ていて、思うことがあるんです」
え、何だろう。
私、何かしてしまったのだろうか。
「えと……ごめんなさい?」
「なぜ謝るんですか?」
きょとんと首を傾げる山南さんに、源さんが笑って言う。
「山南さんが思うことがあると言ったから、璃桜さんは、指導されると思ったんじゃないかな?」
「あ、はい」
違うの?
「いやいや、そんなことはないですよ。むしろその逆です」
山南さんが言うには、私はとても人のことが良く見れている……らしい。
「璃桜さんの指南は、的確に相手の出来ない所を伸ばすよう助言できていますし、小姓の働きを見ていても、あの気難しい土方君の補佐を平気な顔でこなしている」
「あはは……」
「そんな璃桜さんに、一つ訊きたいことがあるのです」
「何でしょうか?」
「芹沢さんの、狼藉についてです」
「ああ………」
そう、あの日から、歳三が危惧したとおり、芹沢さんの狼藉は日々非道い物になっていた。
一度お金を借りたら、それに味をしめたのか、何度も強奪を繰り返し、しまいには壬生浪士組の評判をどんどん下げていくという結果になっている。
「……璃桜さんは、如何すればよいと思いますか」
「………少し、考えさせてもらってもよいですか」
「構いませんよ」
「ああ、ゆっくり考えなさい」
私が時間を貰って考えたのは、如何すればよいか、ではない。
如何なっていたか、である。
芹沢さんの狼藉に耐えかねた、試衛館組は、何をしたっけ。
記憶を奥底から引っ張り出す。
そう、だ。
「………局中法度……」
あの、酷く厳しい隊規。
副長の土方歳三が、それを決めることによって、隊をまとめた時期である。
もしも、もうすぐそれが発表されるなら。
今は、この人たちが動くべきではない。
歳三に任せておくのが、一番いい。
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