ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
147 / 161
第8章 局中法度

第10話

しおりを挟む




十数日後。

「芹沢さんがまたやったのか!?」

「ああ、そうらしい」


近藤さんの部屋にお茶をはこんでいけば、そんな声が聞こえた。


「お茶です」

「ああ、璃桜さんか」


部屋に入れば、山南さんと、源さんが、険しい顔をして近藤さんと話している様子だった。


「山南さん、源さん、こんにちは。今お二人の分もお茶持ってきます」


近藤さんのぶんしかお茶を持ってこなかったため、一度退出して勝手場に戻ろうとすれば。


「璃桜さん」


山南さんの柔らかい声に、呼び止められた。


「はい?」

「璃桜さんにも、お話を伺ってもよろしいですか?」

「え、私ですか?」

「はい、勿論。璃桜さんの隊士指南の様子や、そのほかの仕事を見ていて、思うことがあるんです」


え、何だろう。

私、何かしてしまったのだろうか。


「えと……ごめんなさい?」

「なぜ謝るんですか?」


きょとんと首を傾げる山南さんに、源さんが笑って言う。


「山南さんが思うことがあると言ったから、璃桜さんは、指導されると思ったんじゃないかな?」

「あ、はい」


違うの?


「いやいや、そんなことはないですよ。むしろその逆です」


山南さんが言うには、私はとても人のことが良く見れている……らしい。


「璃桜さんの指南は、的確に相手の出来ない所を伸ばすよう助言できていますし、小姓の働きを見ていても、あの気難しい土方君の補佐を平気な顔でこなしている」

「あはは……」

「そんな璃桜さんに、一つ訊きたいことがあるのです」

「何でしょうか?」

「芹沢さんの、狼藉についてです」

「ああ………」


そう、あの日から、歳三が危惧したとおり、芹沢さんの狼藉は日々非道い物になっていた。

一度お金を借りたら、それに味をしめたのか、何度も強奪を繰り返し、しまいには壬生浪士組の評判をどんどん下げていくという結果になっている。


「……璃桜さんは、如何すればよいと思いますか」

「………少し、考えさせてもらってもよいですか」

「構いませんよ」

「ああ、ゆっくり考えなさい」


私が時間を貰って考えたのは、如何すればよいか、ではない。

如何なっていたか、である。


芹沢さんの狼藉に耐えかねた、試衛館組は、何をしたっけ。

記憶を奥底から引っ張り出す。


そう、だ。


「………局中法度……」


あの、酷く厳しい隊規。

副長の土方歳三が、それを決めることによって、隊をまとめた時期である。

もしも、もうすぐそれが発表されるなら。

今は、この人たちが動くべきではない。

歳三に任せておくのが、一番いい。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...