ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第8章 局中法度

第4話

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「お、いいじゃねぇか、璃桜時々周りの隊士に教えてるだろ? おめぇの足さばきとすばしっこさは、誰にも負けねぇよ」

「それ、褒めてます? 新八さん?」

「褒めてる褒めてる」

「ほら、やってみろよ」

「えええ」


そんなの、無理に決まってるのに。
そもそも、隣で聞いてる鬼の副長様が許すはずないじゃない。

そう、思ったのに。


「…………いいんじゃねぇの」

「は?」

「いや、璃桜のすばしっこさは半端じゃねぇから、な」


にやにやと含み笑いをする歳三は、その漆黒を細めて私を見る。


「やれよ、璃桜」

「ええ!? 無理!!」

「何言ってんだ、このど阿呆。副長命令だぜ」


ひ、酷い。
血も涙もないわ、か弱………くはないけれど一応年頃の娘だっていうのに。

にやりと口角を上げたままの副長様は、左之さんと新八さんを見て。


「相談ってのは、これのことか?」

「ああ、そうだ。新入隊士どもの稽古をつける人が必要になったなと思ってよ。俺らが替りばんこにやってるとはいえ、隊務があるもんだからどうにも人がさけねぇ」

「ってことで、誰か雇おうか、って相談しに来たってわけよ。でもよ」


そこで言葉を一度きり、私の頬をぐにゅり、と大きな手のひらで挟み込む新八さん。


「うひゅ」


ああ、変な声が出ちゃったじゃないの。


「璃桜がいてくれんなら、百人力だぜ」

「そうだよな! 璃桜に任せとけば、たいていの奴はみっちり仕込まれそうだしよ!」

「………」


もう。
本当に。


「しかた、ないなぁ」


この人たちはずるい。
そんな優しい笑顔で、私の事、気にしてくれているのに、私が断れるわけないじゃない。


「よっしゃー!! そうと決まれば、早速行くぜー!!」

「ええっ、私さっき稽古終えたばっかりなのに!!」

「そんなこと言ってないで、さぁさぁ、行った行った!」

「としっ……、」

「また後でなー。それ終わったら仕事用意しとくかんなー」

「お、鬼!!!」


左之さんと新八さんに引きずられ、歳三には毒を吐かれて。

そうして、私の新人指南の仕事が決まったのだった。





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