ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第7章 居場所

第5話

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「……きゃ、」

「うわっ」


ただでさえ布団で前が見えないのに、速足で歩いていた私は、縁側の曲がり角で誰かにぶつかってしまったらしい。

しりもちをついて布団に埋まり、うめき声をあげていれば、視界に見知った茶色の髪がたなびいた。


「と、……璃桜?」

「……そう、ちゃん…」


いつも顔を合わせているはずなのに、どうしてか二人きりで会うのは久しぶりなような気がして。

そういえば、最後に二人で話をしたのはいつだっけ。

そんな事が、頭の中に浮かんだ。

そうちゃんも、同じことを思ったのだろうか。
気付かず内に、互いに名を呼びあえば、互いの視線が交錯した。

琥珀と、琥珀。
色素の薄い、同じ色の瞳を見れば、刹那。

浮かぶのはあの夜のこと。


“璃桜?”


血濡れた笑顔で、笑う貴方。
頭の中にフラッシュバックしたその光景に、ぎゅっと目を瞑る。

次の瞬間に目を開いたときには、もうすでに、目を逸らされていた。

まるで、……………私を、気遣うように。


「また土方さんの雑用してるの? 大変だね?」

「え、あ、……うん」

「土方さんも布団ぐらい自分で干せばいいのにねー」


何でも無い事のように、いつもおちゃらけた口調で会話を始めるそうちゃん。

けれど、横から見る、決して交わらないその瞳は、何処か冷めていて。

横からならいくらだって眺めていることが出来る、その瞳も、交わればすぐにあの光景がフラッシュバックしてしまうから。

あの夜から、目を見つめることが出来ないままでいる。

じっとその横顔を、ただ見つめていれば。
一瞬、辛そうに目を眇めて。


「平助がその辺にいるから、手伝ってもらえば?」


ふい、と顔を逸らしたままそう言って、去ってしまった。


「あ、…………」


声をかけようと思ったけれど、開いた口からは、何も言葉は落ちてこなかった。

ただ、漠然と。
…………彼を、傷つけた。

そう、思った。

決して、傷つけたいわけじゃない。
けど。

どうしても、あの夜のことが頭にこびりついて離れてくれない。

だから、いつまで経っても、そうちゃんの瞳を見つめることが出来ないままで。


「………ごめん、ね」


ぽつり、謝罪の言葉を落とす。


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