ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第7章 居場所

第2話

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いやいやいや。春画本くらい知ってますよ。

私、こう見えても一応大学生やってましたから。
知識はありますよ。

というつっこみは心の中に収めておいて。


「春画本? って、あの、歳三の持ってるやつですかー?」

わざと、そう聞いてやった。

ふふん。私に雑用を押し付けた反撃だ。
その言葉に逸早く反応したのは言うまでもなくそうちゃん。


「え? 土方さんが、持ってんの?」

「ばっかやろう! 持ってるわけねぇだろが」

「えー、そのムキになるところが、あーやーしーいー」


そうちゃんのその声に、まわりのがやがやとはやし立てる。


「あー、うっせぇうっせぇ! 黙れ馬鹿野郎!」

「えー、じゃあ、何で持ってないって言えるんですかー?」


今ここで証明してくださいよ、そう言って、してやったりな顔をした平ちゃん。
それを見た歳三は、余裕の表情で爆弾発言をかます。


「あ? 女の事なんて経験積みゃあ、春画本なんて見なくったってなぁ、悦ばせられんだよ」

「なっ…………」


この女の敵!!

なんて思いながらも、ぎゅっと痛む心に気付かないふりした。
知ってる、そんなこと。
分ってた、はずだもの。

顔を逸らすと不自然だから、逆に、じっと睨みつけてみる。

それに気づいているのかいないのか、歳三は口角を上げ、平ちゃんに向かって、なんとかも終わってねぇ餓鬼が、と呟いた。


「ふでお…………っ?!」

「何? 何も終わってない、って言った?」

「あああああ! 璃桜、聞くんじゃねぇ!」


平ちゃんの手によって妨害された聴覚。
何を言ったのかなんて、ききたくもないけれど。

どうせ、下ネタでも言ったんでしょ?
左之さんと新八さんのにたりとした表情に、そう思った。


「とにかく、狭いのはどうにかしなきゃいけない問題ですね」


下品な会話に走りそうになっていたところ、場を柔らかくまとめて話を戻したのは、山南さん。

うんうん、とご飯をほおばりながら山南さんに同意を示したのは、源さん。

…………流石のお二人。


「そうですよー、土方さんはいいじゃないですか、璃桜と一緒なんてー。でも、俺なんか平助ですよ、平助。五月蝿いったらありゃしない」

「はぁ?! それはこっちの台詞だ、ばっきゃろー!」


そうちゃんと平ちゃんが言い合いを始めたことによって、また、変な方向に話がずれそうになったとき。
二人のくだらないじゃれ合いを見て、齋藤さんがぼそり、声を上げた。


「………狭いのが嫌なのなら、引越せばいいんじゃないか。丁度前川邸が空いているだろう」


その言葉は、誰も考えていなかったようで。

一瞬のうちに、しん、と静まり返った。

普通に考えれば出てくる案だろうに、普通過ぎてむしろ頭に残らなかったのだろうか、おそるおそる、左之さんが尋ね返した。


「……………今、なんつった?」

「引越せばよい、と言ったんだが」


二度も言わせるな、と言ったように眉を上げ、静かに箸を動かす齋藤さんだけが、平常運転だった。



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