ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第6章 泡沫

第26話

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その事実に、溜息が零れる。
なんて、脆い決意。

それは最早、決意なんて呼べる代物ではなく。

ただの、自己満足。


結局、私は、未来の人間なんだと。
あの、穏やかで優しい、けれど平凡な時代の人間なんだと思い知らされた。

縁側に腰掛けたまま、伏せた瞳を無理矢理あげて、空を見る。
見上げた月は、静かに私を照らし続けて。


「…………そう、ちゃん」


呟いた名に、心が沈む。
月の明るさとは正反対の、黒い黒い闇に、ずぶずぶと。

芹沢さんが、そうちゃんに殿内を斬れと言わなければ、そうちゃんは剣を手にしなかったのだろうか。

人を、殺めることなど、なかったのだろうか。

もう、私が此処にいる時点で、そんなの仮定の中の話だけれど。
思考は悪い方へと傾くばかり。

もしも、私がいなかったら、そうちゃんは人斬にはならなかったんだと。
そう、思ってしまったら、もう、心は沈む一方で。

助け出してほしい、この闇から。

そう思って、きらきらと光る月を見上げていたら、本当にちらちらと光が躍って。

気が付けば、視界がぼやけていた。


「……っ」


目を見開いて、涙を零さないように上を向く。
そのままの勢いで、ぱたん、と縁側に倒れ込む。

刹那。
私の、上に影がかかる。


「……璃桜」

「……とし、ぞ」


そこには、漆黒の瞳を柔らかくして、此方を見つめる貴方がいた。

勝手に部屋からいなくなんじゃねぇよ、そう呟きを落として、私の横に胡坐をかく貴方。


「……泣いてんのか」

「………………」


涙が零れそうなほど潤んでるだろう瞳を、咄嗟に俯いて隠したけれど、聡い副長さんにはバレバレだったようで。


「……どうした、璃桜?」


心配げに、眉をおろして、そう、尋ねてくる。


「……ううん、平気」


どうしてそんな、優しく訊いてくるの?
心に疑問が浮かんだ瞬間、その回答も頭に浮かぶ。

私だけじゃない、歳三は誰にだって優しいんだって。
特に、理由はないんだって。

そう思うだけで、何故だかへこむ自分がいる。

例え、私が心から望むように。

そこに特別な理由が有ったとしても。
どうしたかなんて、言えるわけがない。



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