ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第6章 泡沫

第24話

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「いか、ないで」


気が付けば、そう、言葉を零していた。


「どうしたってんだよ、熱でおかしくなっち」

「違う」


違わないかもしれないけれど。
あきれたように振り向いて笑う歳三を遮ってまで、喉からぼろぼろと言葉が出てくる。


「行っちゃ、やだ」


それに伴って、伸ばされた己の腕。
その掌は、まるで自分のものではないかのように、空中をさまよっていた。


「璃桜……?」

「いかな、いで。ここに、居て」


まるで、過去にもこんなことがあったかのように、その後ろ姿を、目に入れたくないと願う。

そう思えば、すうっと冷たくなった頬。
触ってみると、火のように火照った中に一すじ、涙が零れていた。


「何、泣いてんだよ」

「わかんな…い」


ただ、切ないの。
ただ、寂しいの。


「わかったよ。ここに、居てやる」


そう言って布団の横に腰を下ろし、胡坐をかいてそっと手のひらを伸ばしてくれた。

その行先は、私の頭。
ゆるりと優しく撫でられて、その安心感に、そっと瞼をおろした。


「歳三……」

「大丈夫だ。ここに、居てやるから、ゆっくり寝ろよ」


いつもとは打って変わって、柔らかな低い声で、私を諭すように声を落とす。


「うん……」


目を瞑れば、すうと眠りが私を誘う。

歳三の手のひらを頭に感じながら、眠りへと落ちてゆく。


それは、もう。
火照った辛い眠りではなく、安心した回復への眠りだった。






「ん…………」


ふと気が付いて目を開くと、あたりは闇に包まれていた。


「もう、夜……?」


空腹を感じて、お腹に手をやった。
それだけ時間が経ったということなのだろうか。

食べものを口にしていないせいで、若干くらりとする頭を布団から起こせば、はらりと何かが額から剥がれ落ちる。

掛け布団に落ちたそれを拾ってみれば、それは濡らした手ぬぐいだった。

歳三がのせてくれたのだろうか。
そう思って横を見てみれば、いつものように布団に入った歳三が見えた。

月明かりだけでわかるそのくまに、ああ、心配をかけていたんだな、と申し訳なく思った。


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