ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第6章 泡沫

第23話

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「…………ん」


次に目を開いたとき。

爽やかな太陽光が、開いた襖から入ってきて、眩しさに目を細めた。
重みを感じて、痛む腕を押さえ、頭を上げた視界に入ってきたのは。


「わ! とし、ぞ!!」
「んー」


掠れた低い声で、眠そうに。

瞼を閉じて私の布団の上に、半ば乗っかって寝ている歳三の姿だった。


「……うっせぇな……もう少し、寝かせろ」

「え、ちょ、」


すごい、くま。
夜遅くまで起きていたのだろうか、嗄れた声で抗議し、眉根を抓んだその姿を、もっと良く見ようと身体をぐっと起こした。

その刹那。


「……っ?」


ぐらり、見えているものが歪む。

力が、入らない。
そのままぱたんと横に倒れ込めば、ちょうどそこに寝ていた歳三にもたれこむ形になった。


「……璃桜? おい、大丈夫か?」

「……ごめ、力、はいんない……」


若干慌てたように起き上がり、私のことを支える歳三の筋肉質な腕を感じながら、まわる視界に瞼を閉じる。

と、ふわり。
私の額に、手のひらがのった。


「……まだ、熱あんな。大人しく寝てろよ」

「……え…熱?」


その言葉に、漸く気付く。
自分の身体が、不調を訴えていることに。

熱が出てるから、こんなにくらくらするんだ。

額にあてがわれた歳三の手のひらが、ひんやりと火照った熱を吸収してくれるようで。


「……きもち、いい……」


思わず口に出せば、ぎょっとしたその表情と目があった。


「な、ちょ、……なに、言い出すんだよてめぇは」

「………え……?」


私、何か変なことでも言ったのだろうか。

突然真っ赤になった歳三は、若干私から目を逸らして、ぼそりと呟いた。


「この、馬鹿」


馬鹿って言われる理由が全然分らないんですけど。

けれど、それよりもくらくらとした眩暈がひどかったから、ぱたり、布団に倒れ込んだ。


「……うー」
「おい、大丈夫かよ」


火照って熱い身体を冷まそうと、ぱたぱたと襟元を広げて手のひらで風を送る。


「ちょっと待ってろ。今、飲むもん持って来てやっから」


その声に、自然に閉じていた瞼を開けば、ぐにゃりと歪んだ景色の中に、後ろ姿の歳三が見えた。

その姿が、瞳に映った刹那。
切なさが、心を支配した。

如何してかなんて、分らない。

けれど、まるで。
きゅう、と胸が、音をたてたように、寂しくなった。



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