ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第6章 泡沫

第22話

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しゃらり。

しゃらり。


簪が、音をたてる。


その音に、瞳を開けば目に映った木目の天井を背景に。


はらり。

漆黒の髪が舞いあがる。


おぼろげに開いた目の前で、さらさらと動く艶やかな黒髪に。

少しだけ、覚醒する。

此処は、どこなんだろう。
気が付けば、誰かに、ぎゅっと抱きしめられていた。


誰だかなんて、わからない。

けれど、その温もりが、その腕の力が。

心に、潤いを流し込んでくれる。


それに伴って、ぼろぼろと零れ落ちる、雫。


熱を持った雫が、己の琥珀色から零れて、頬を伝う。


ひどく、心が痛い。

誰だかわからないけれど、強く、縋り付きたいと思ってしまう。


まるで、私の心の弱い部分を剥き出しにしてしまったかのように、ひりひりと痛む悲しみの淵を、貴方は優しく包んで、慰めるように。

………額に、口づけを落とす。


しっとりとした温もりに、ふっと、息が零れて。



「………おやすみ、璃桜」



その言葉を最後に、ふたたび眠りに落ちていった。




仄暗い行燈の光の中で、私を寝かせた歳三が。

文机の上にある箱から取り出した、私の書いた落書きを見て。


「新撰、組か……これは、俺たちの事なんだろうな」


溜息を、零す。


「……璃桜、おめぇは………」


ぼそり言葉を落とし、ゆるりと目を私に向け、桜の簪を、握りしめて。


「俺の、こと、思い出すよな…………?」


辛そうに、ぽつり。

そんなことを言っていたとは、つゆほども知らずに。



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