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第6章 泡沫
第20話
しおりを挟む「………璃桜?」
嫌だ。
何も、考えたくない。
考えられ、ないの。
「…………っ、」
ひゅっと、喉が鳴った後。
―――――――私は、漸く悲鳴を上げた。
その後のことは、よくわからない。
気が付けば、歳三や芹沢さん、いろいろな人が中庭に集まって、今はもう亡き殿内さんと、私たちを囲んでいた。
意識は、しっかりしている。
けれど、何が起きているのか把握できるほど、心が強くなかった。
心配げに、私の顔を覗きこんでくれたそうちゃんも、頑なに目を合わせようとしない私に愛想が尽きたのだろうか。
皆が来たことで、ふいと私から顔を逸らす。
「俺、着替えてきます」
そう言って、ぶんっと刀を振り、血しぶきを飛ばす彼の瞳が、恐ろしくて見上げられない。
そうこうしている間に、そうちゃんは部屋に行ってしまった。
「今日の予定ではなかったんだが、まあ良いだろう」
「残りのやつらに気が付かれたら損だ。さっさと片を付けちまおうぜ」
予定を気にする芹沢さん、感想を述べる左之さんの声に、きびきびと的確に指示だしをする歳三の声が、耳から入っては抜けてゆく。
けれど、頭の中に回る映像は、一つだけ。
目の前で、人が殺された。
優しい、そうちゃんが、手を下した。
吹き上がった真っ赤な血しぶきの残像が、過去の記憶を呼び戻す。
…………ごとん。
転がった父親の首の映像が、音までも生々しく蘇る。
「………っ、や」
「璃桜、大丈夫か?」
「どうした?」
平ちゃんや新八さんの、心配げな声にも、今はきちんと答える余裕がなくて。
「や、やだ……」
意識はしっかりとしているのに、襲われているときのようにがたがたと、自分の身体が震えだす。
それに伴って、見開かれた瞳からは、ぼろぼろと雫が零れた。
それはもう、己では、制御できぬほどに。
「璃桜、大丈夫だ」
ふわりとかかる、低い声。
それと同時に、温もりに包まれる。
「………っ、」
嗚咽が漏れないように、唇を噛み締めて顔を上げれば。
震え続ける私の身体を、そっと抱きしめていたのは、歳三だった。
「………大丈夫だ。部屋に戻るぞ」
耳元で落とされる優しい響きに、ふっと体の力が抜けた。
「新八。後頼む」
そう言って、へたり込みそうな私を、支えるようにまわしている腕に力を込めた歳三に、半ばもたれかかるようにして部屋へ戻った。
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