ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
111 / 161
第6章 泡沫

第13話

しおりを挟む
「兎にも角にも……ルノ殿が戻らない事は話は勧められないのう」
「そうですね。またルノさん頼りになるのは心苦しいですが、現状で帝国が即座に力を貸せる戦力があるとすればルノさんだけですからね」
「しかし……エルフ王国ですら対応できない数の昆虫種をルノさん一人でどうにか出来るのでしょうか?」
「それを言ったら帝国の軍隊だって敵わねえだろ。あいつにどうしようも出来ない敵に帝国軍が敵うはずがねえ……」
「情けない限りじゃのう……一人の少年に頼り切る事しか出来んとは」


会議は難航し、現状で帝国が動かせる戦力は限られ、やはり軍隊を派遣するぐらいならばルノに支援して彼がエルフ王国に向かう方が良いという判断に至る。結局、今回もルノに頼ってしまう事に会議室の面々は溜息を吐き出し、帝国の中でルノと言う存在はあまりにも大きくなり過ぎた。


「それにしてもルノ殿は無事なのか?リーリスの報告によれば魔王軍の幹部の元へ向かったと聞いているが……」
「あの手紙の内容を確認する限りではもう帝都には居ないでしょうね。迎えに行くとしても行き違いになる可能性もありますし、時間が掛かり過ぎます。ここは大人しく待つ方が良いでしょう」
「それにしても魔王軍の奴等は何人幹部が居るんだよ。しかも全員化物揃いじゃねえか」
「本当に化物も含まれていましたよね。ダマラン大臣はともかく、蛇竜を魔人族に変異させるなんて有り得ませんよ」
「うむ……まあ、会議の続きはルノ殿が戻ってからにしよう」


結局はルノが戻るまで会議を中断し、別室に待機させている直央を呼び出して彼からもう少し詳しい事情を問い質す事にした。彼等の誰もがルノがいつも通りに問題を解決して戻ってくる事を疑っておらず、今回も彼が何とかしてくれると思い込んでいた――




――しかし、リーリス達の思惑とは裏腹にルノは翌日になっても戻って来ず、急遽彼等は会議室に集まり、戻らぬルノの事について話し合う。


「……既にルノ殿が消息を絶ってから1日が経過した。白原に向けて迎えの部隊を送り込んだが、状況的に考えてルノ殿の身に何かあったのだろう」
「今朝、念のために屋敷の様子を見てきましたがルノさんや魔獣達が戻っている様子はありませんでした。そしてルノさんの性格から考えても私達に連絡を寄越さずに消えるはずがありません」
「という事は……魔王軍に捕まったか、あるいは殺されたか、生きてはいるが我等と連絡が取れない状況に陥っているという事か」
「くそっ!!あのガキ……無事なのか?」


全員の顔色が暗く、ルノが戻って来ない事に彼等は不安を隠せない。誰よりも強く、幾度も魔王軍を撃退してくれたルノが戻って来ない事にリーリス達は動揺を隠せず、先帝でさえも顔色を悪くする。


「考えたくはないが、ルノ殿が捕まった場合、我々はどうすればいい?」
「勿論ルノ様を助け出すべきです!!すぐに白原に軍隊を派遣しましょう!!」
「正直、私もその意見には賛成したい所ですが、その場合はエルフ王国の対応はどうするんですか?」
「それは……」
「落ち着いて……調査は私達の部隊に任せればいい」


先帝の言葉にドリアが真っ先にルノの捜索を願い出るが、リーリスが頭を抑えながら首を振る。すぐに情報収集に優れた人員で構成されている部隊を持つヒカゲが進言すると、皇帝は頷く。


「うむ。ルノ殿の捜索はヒカゲに一任しよう。すぐに冒険者ギルドにも連絡を行い、彼等にも調査を申し込む」
「分かりました……御免」


ヒカゲも焦っているのか皇帝の言葉を聞くと即座に行動を開始し、急ぎ足で会議室を退室する。しかし、ルノが白原に向かった事を考えると帝都近辺に存在する可能性は薄く、幾らヒカゲの部隊を以てしてもすぐにルノの消息が掴めるとは思えない。


「弟よ、ルノ殿の事はヒカゲに任せるとしてもエルフ王国の件はどうする。ナオ殿の話によれば一刻も争うぞ」
「分かっています。同盟を結んでいる以上、帝国も援軍を派遣しないわけにはいかない……このまま王国が滅びれば帝国も無事では済まない以上、何としても助けなければ……」


帝国と王国が同盟を長らく結んでいるのは両国が隣国同士であり、周辺諸国から領地を守るためである。二つの国を中心に他の国が取り囲んでいる状態のため、これまで両国のどちらかに他国が侵攻した場合は必ず両国は力を合わせて対応していた。もしもエルフ王国が滅びてしまえば帝国も無事では済まず、巨人国や獣人国のような大国が動き出してしまう。


「しかし、援軍を送ると言っても我等も余裕はないぞ。今動かせる兵力はせいぜい5000が限界……それに魔王軍がルノ殿を捕えたと考えた場合、帝都の警備も高めなければならん」
「うむ……各領地から兵士を呼び集めるにしても時間が掛かり過ぎてしまう。一体どうすればいいのか……」


皇帝と先帝の会話に他の人間は黙り込み、良案が思いつかない。ここにルノが居ればと誰もが考えてしまうが、今更そのような泣き言は言っていられない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...