ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第6章 泡沫

第11話

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「………で? 何の用があったんだよ」

「あー、それなんですけど。本当は、土方さんに用があるんですよねー」


そう言って、にへら、と笑うそうちゃんを見て、ぷちん、と音がした気がした。

あ、これ、やばいやつ。
ここに来てから、何度かお目にかかっている、そうちゃんと歳三のくだり。

つまり。
歳三が、そうちゃんにキレるくだりだ。


「いい加減にしろよ、総司!」

「あー、鬼だ鬼ー」


きゃー、なんて裏声で悲鳴を上げて、部屋から出てゆくそうちゃんを、いきり立った歳三が鬼の形相で追いかけていって。


「……行っちゃった……」


貴方たち、何歳ですか。

歳三は、史実通りの誕生日なら、二十八歳。
そうちゃんは、十九歳だ。


「……どこぞの餓鬼よりも、幼い……」


二人の子供っぷりに、壬生寺で最後に会った子どもたちのことを思い出した。

元気かなぁ……。
そんな事を思いながら、未だ机の上においてある、落書きに目をやる。


「………ほんと、そっくり」


待っているのは暇だったから、隣にそうちゃんや平ちゃん、試衛館の皆のことを書き足す。


「…………」


そうちゃんは、悪戯っ子の顔、平ちゃんは、子犬みたいに。

左之さんは、目をハートにしよう、新八さんは、お兄ちゃんキャラで。

近藤さんは、四角く、山南さんは、丸く。

齋藤さんは無表情、源さんは垂れ目。

特徴をささっとかいていけば思ったよりもいい感じにまとめられた。


「いいじゃん、これ」


そのまましておくのは、もったいなかったから、上に新撰組、と書いて。


「……完成」


かたり、と筆をおいて、そのままごろんと横になった。
そうすれば、丁度、座布団がいい感じの枕になって。


「……ねむ」


ゆるりと目を瞑れば、瞼の裏に浮かぶのは、歳三の顔。

それも、時折しか見せない笑顔だった。
その残像から逃れられずに、ぱっと目を見開く。


「………なんで」


如何して、彼の笑顔が浮かぶの。

最近、ずっとそう。
ここに来て彼に出逢って、初めに抱きしめられてから。

歳三の挙動に、その温もりに、どうしても、心の奥が、既視感を覚えて仕方がない。

ううん、それだけじゃ、ない。
歳三のことを見ると、ぎゅっと胸が締め付けられる気がする。


「………恋、なのかなぁ」


ぽつりと呟いてみたけれど、それは絶対に違う。

だって、恋なんて、そんなの。
幕末にタイムスリップした私が簡単に落ちていい物じゃないから。

例え、そうだと仮定しても。
たぶん、おそらく。
推定しかできないけれど、この気持ちは。

…………………恋、とかそんな簡単な感情じゃない。


ただただ、理由など何もわからないけれど、翻弄される私がいる。


「……どう、して……」


わからない。
自分の事が、何もわからない。

誰なのかも、如何して此処に来たのかも、何処が本当の居場所なのかも。

ぐるぐると、回る考えに思考の波がゆうらりと揺れる。


「……………」


何も考えたくなくなって、そっと目を瞑った。
そうすれば、直ぐに、眠りの世界に引き込まれた。




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