109 / 161
第6章 泡沫
第11話
しおりを挟む「………で? 何の用があったんだよ」
「あー、それなんですけど。本当は、土方さんに用があるんですよねー」
そう言って、にへら、と笑うそうちゃんを見て、ぷちん、と音がした気がした。
あ、これ、やばいやつ。
ここに来てから、何度かお目にかかっている、そうちゃんと歳三のくだり。
つまり。
歳三が、そうちゃんにキレるくだりだ。
「いい加減にしろよ、総司!」
「あー、鬼だ鬼ー」
きゃー、なんて裏声で悲鳴を上げて、部屋から出てゆくそうちゃんを、いきり立った歳三が鬼の形相で追いかけていって。
「……行っちゃった……」
貴方たち、何歳ですか。
歳三は、史実通りの誕生日なら、二十八歳。
そうちゃんは、十九歳だ。
「……どこぞの餓鬼よりも、幼い……」
二人の子供っぷりに、壬生寺で最後に会った子どもたちのことを思い出した。
元気かなぁ……。
そんな事を思いながら、未だ机の上においてある、落書きに目をやる。
「………ほんと、そっくり」
待っているのは暇だったから、隣にそうちゃんや平ちゃん、試衛館の皆のことを書き足す。
「…………」
そうちゃんは、悪戯っ子の顔、平ちゃんは、子犬みたいに。
左之さんは、目をハートにしよう、新八さんは、お兄ちゃんキャラで。
近藤さんは、四角く、山南さんは、丸く。
齋藤さんは無表情、源さんは垂れ目。
特徴をささっとかいていけば思ったよりもいい感じにまとめられた。
「いいじゃん、これ」
そのまましておくのは、もったいなかったから、上に新撰組、と書いて。
「……完成」
かたり、と筆をおいて、そのままごろんと横になった。
そうすれば、丁度、座布団がいい感じの枕になって。
「……ねむ」
ゆるりと目を瞑れば、瞼の裏に浮かぶのは、歳三の顔。
それも、時折しか見せない笑顔だった。
その残像から逃れられずに、ぱっと目を見開く。
「………なんで」
如何して、彼の笑顔が浮かぶの。
最近、ずっとそう。
ここに来て彼に出逢って、初めに抱きしめられてから。
歳三の挙動に、その温もりに、どうしても、心の奥が、既視感を覚えて仕方がない。
ううん、それだけじゃ、ない。
歳三のことを見ると、ぎゅっと胸が締め付けられる気がする。
「………恋、なのかなぁ」
ぽつりと呟いてみたけれど、それは絶対に違う。
だって、恋なんて、そんなの。
幕末にタイムスリップした私が簡単に落ちていい物じゃないから。
例え、そうだと仮定しても。
たぶん、おそらく。
推定しかできないけれど、この気持ちは。
…………………恋、とかそんな簡単な感情じゃない。
ただただ、理由など何もわからないけれど、翻弄される私がいる。
「……どう、して……」
わからない。
自分の事が、何もわからない。
誰なのかも、如何して此処に来たのかも、何処が本当の居場所なのかも。
ぐるぐると、回る考えに思考の波がゆうらりと揺れる。
「……………」
何も考えたくなくなって、そっと目を瞑った。
そうすれば、直ぐに、眠りの世界に引き込まれた。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚
里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」
なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。
アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる