ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第6章 泡沫

第10話

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そんなことを心で考えていれば、むっとした顔で此方に目をやる貴方。


「笑ってねぇで、教えろよ」

「えー、じゃあ、ヒントね」

「ひんと?」


きょとんとする彼を見て、ああ、そうだったと思う。

ここは、外来語通じないんだった。


「あー、えっと、………つけたし?」


そう言って、落書きの髪を黒く塗りつぶし、にょきっと角をはやした。


「これで、分かるでしょう?」


それをじっと見つめていた歳三は、一言。


「………俺、か?」

「正解」


まじまじとその似顔絵とも呼べない落書きを見つめて切れ長の双眸を瞬く歳三が、なんだか少しだけ可愛らしくて。


「………ふふ」


笑いが、自然と口から零れた。


「何、笑ってんだよ」

「えー? 歳三が面白くて」


可愛い、なんて言ったら、本当に頭から角が生えてきそうだから、胸の内に仕舞っておく。


「はぁ? しかもおい、なんだよ、この頭から生えてるもんは」

「え、角に決まってるじゃん、歳三怒ってる時、鬼みたいになるから」

「…………んだと?」

「あー、土方さん、頭から角をはやしてるー。璃桜、この絵すごいいいね」


突然聞こえた、ゆるい一言に、驚いて固まる。

けれど、驚いたのは私だけのようで。
声の主が入ってきた気配に聡く気が付いていたのだろうか、後ろから聞こえた声に、歳三は、はぁ、と一つため息を落として。


「………総司。勝手に入ってくんなって何度言ったら分かんだよ」

「えー? 俺は、璃桜の部屋に入っただけですー」

「あのなぁ! ここは、俺の、部屋なんだよ馬鹿野郎」


一言一言強調しながら、眉間に立派な皺を入れて、そうちゃんに諭す歳三は、何処か兄じみていて。

普通に黙っていれば、とっても粋な男の人なのに。
そういう言動を見ていると、ああ、人間だな、なんて優しい気持ちになる。

けれど、それがどうしてなのか、なんて。

平成にいつか戻らなければいけない私が、考えたらいけない気がする。

そう思えば、如何してだか心の何処かがきゅっと音をたてた。


どくん、と鼓動を刻む己の胸に、手をあてて、彼らのほうを見た。

ひとしきり小言を言ったら、落ち着いたのか、片方の眉を上げて歳三がそうちゃんに尋ねた。



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