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第6章 泡沫
第9話
しおりを挟む「どうすんだよ?」
「どうするって……」
何なの。
私こそどうしてそんな言葉を言ったのか知りたい。
どくどくと、己の心臓が脈を打つ。
その速さに、かっと頬が熱くなる。
だって、やだなんて、そんなの。
まるで、私のことを離したくないみたいで。
そんな事は、絶対にないのだろうけど。
―――――――私のことを、好いているみたいじゃない。
そんな考えが浮かぶ私の頭は、百五十年の時を超えるときに、ショートしてしまったのかもしれない。
「っ、とし、ぞ」
自分の鼓動が、耳に大きく響くのが聞こえる。
どうしよう、絶対に歳三にも聞こえてる。
「…………なんてな」
「……えっ」
言葉と共にぱっと解放される顎と肩。
もしかして、からかってただけ?
解放されても動かない私の考えを読んだように、ふっと鼻で笑った歳三は。
「おめぇ、変な男に引っ掛かんじゃねぇぞ。今のままだと気付かねぇ内に、手籠めにされんぜ」
「…………余計な、お世話」
………本当に、余計なお世話だよ。
どうしてこうも、心が痛い。
からかっていたのなんて、知っているはずなのに。
意地悪な歳三なんて、嫌いなはずなのに。
けれど、それよりも何よりも。
歳三の笑顔が浮かぶ、私のことが、嫌い。
そんな事を思いつつ、少しでも期待した自分がいたことに、ひどく胸が痛んだ。
「………璃桜?」
黙り込んでいた私を不思議に思ったのか、片方の眉を下げ顔を覗きこんでくる。
やばい、何か。
「…………何」
泣き、そう。
じわりと滲む視界を誤魔化すように、歳三に背を向けて半紙に筆を走らせる。
咄嗟に動いた手は、文字ではなく落書きのように絵を描いていた。
「何、描いてんだよ」
「…………何だと思う?」
歳三が絵に見入ってる間に、そっと袖で睫毛を湿らせる涙を拭う。
「わかんねぇよ。人だろ、人」
そう言いながらも、私の落書きを見続けるその横顔が。
ただの勘違いかもしれないけれど、少しだけ楽しげに見えたことにしていいだろうか。
自分が、歳三の笑みを引き出せると思うだけで。
それだけで、立ち直ってしまえるから。
自分の単純さに、笑いが漏れる。
それは、自嘲の響きがないわけじゃないけれど。
ただ、純粋に、幸せだと思った。
こんなにも、直ぐに気分を変えられる己のことを。
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