ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
104 / 161
第6章 泡沫

第6話

しおりを挟む



そのまま空気一枚挟む距離で、にやりと笑い。


「……ぎゅってしてくれたら為坊たちが言ってたこと、教えてあげてもいいよ?」
「……は?」


ナニヲイッテルンデスカ?


「ほら、昔やってたじゃん。癒してくれないの?」


いやいやいやいや。
貴方何歳だと思ってるんですか。

そりゃ、勿論、親のいない寂しさからお互いにぎゅっと抱きしめあって眠った日もある。

そんな日は。


「そうちゃん、寂しい」

「璃桜、おいで。おれがいやしてあげる」


なんて、何だかませた会話を交わしてた記憶もある。
いや、変な意味ではなくただ純粋に。


だけど。
それは、小さい時の話で。

もう、辺り構わず抱きしめられる年頃じゃないでしょう?!


唖然として、声すら出ない。

そんな私を琥珀色の潤んだ瞳でじっと見つめ続ける、そうちゃん。

何ですかその子犬のような眼は。


「………え、えと」

「りーお」

「………こ、今度ね?」

「えー、今」


ど、どうしよう。
逃げようにも、そうちゃんにがっちりと腕を支えられていて、逃げられない。


「もう! 抱きしめれば、いいんでしょう?!」


どうにでもなれ、と目を瞑って抱きつこうとした時。


「………り、りお!!!!」


縁側から、愕然としたような声がした。


「……あー、五月蝿いのが来た」


するりと離れたそうちゃんは、ちっと再び舌打ちをして、私のことをぱっと放す。


「りりりりり、璃桜………!!」

「うるさいよ、平助。今良い所だったのに」

「何がいい所だ、この野郎!! 抜け駆けは禁止だって言ったじゃねぇか!」


興が冷めた、とでもいうようにゆるりと縁側に上がるそうちゃんに、きゃんきゃんと噛みつく平ちゃん。


「………ぬけ、がけ?」


それは、普通。
恋敵に、遣うものではないのだろうか。


「あ、そ、総司………」

「………まぁ? 俺は璃桜の兄だし、抜け駆けも何もそんなの関係ないけどねー」

「だ、だよな! 俺何言ってんだろー!」


何だか非常にごまかされた気がしたけれど。
追及することもないか。

そう思ってそうちゃんの上がった縁側に上がる。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

処理中です...