ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第6章 泡沫

第2話

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「こら。お兄ちゃんの言うこと聞きなさい」


冗談交じりにそう言われてしまえば何も反論できず、ただ黙って髪を拭かれてた。

そうすれば、手ぬぐいで前の見えない状態で、下の方から声がした。


「璃桜ちゃんは、そう兄ちゃんの弟なの?」

「そうだよー、よくわかったね、為坊」


そうちゃんの上から降る声に、為三郎が言ったのかと思う。


「だって、そう兄ちゃんが今言ったもん!」

「えらいえらい。推測は大事だね」


私の頭を拭き終えた、その大きな手のひらが為三郎の頭に移動するのをみて、ほほえましく思う。

それにしても、そうちゃんがここまで子どもたちと馴染んでるとは思ってもみなかった。


「璃桜ちゃんも、ほめて!」


そう言って飛びついてくる為坊が、とっても愛らしい。

ぎゅっと柔らかくて暖かな温度を受け止めながら、子どもは、私も好きだなぁと思う。

可愛くて、純粋だから。

タイムスリップする前に、あった子どもたちは元気でやってるかな、なんて、ふと思った。


そう思った矢先。


「えー、璃桜ちゃんは、そう兄ちゃんの妹だよ!!」


勇之介の声に、その言葉に、ぎくりと身体が強張った。

何で、私が女だと知っているのだろうか。
どくどくと早まる鼓動に、着たばかりの萌葱の着流しの襟元をぎゅっと掴む。

その間にも、ふたりの兄弟の言い合いは続いていて。


「えー、弟だよ!」

「違うんだもん!おれ、しっとるよ!璃桜ちゃんは―――」

「……為三郎、勇之介」


子ども特有の高い声に交じって落ちた、柔らかな男の人の声に、ぱちり、と瞬きする。


「なんや、改まって」

「……俺と、中庭で遊ぼう?」


その声の主は、勿論、そうちゃん。

途端にきらきらと瞳を輝かせる二人。


「璃桜も、行くよ」

「え、ちょ」


私、お風呂入ったんだけど。

というか、こんな時間に? お内儀さんに怒られそう。


けれど、そんな反論も言葉にする前に、ぐいと手を引かれて、慌てて下駄を履く。


「遅いー」

「早く早く!」


今から何をして遊ぶっていうの。

もう夜で、あたりは屋内から洩れる明かりと月明かりしかないって言うのに。

手を引かれるままに、中庭に降り立てば、まだ少し濡れている毛先から、ぽたりとひとつ、雫が落ちた。

それを合図にしたかのように、丸く輪になってしゃがみ込む三人。
一人だけぼーっと突っ立ってることも出来なくて、同じようにしゃがみ込んだ。



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