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第5章 存在意義
第21話
しおりを挟むけれど。
江戸時代、幕府の崩壊、新政府の確立。
目まぐるしく変わっていく情勢に、呑み込まれる時代に、居るから。
心のどこかで、歴史に関わりたくないと、関わってはいけないと冷静に述べる私もいて。
勿論、それを知っているのは、私だけ。
未来から来たという事実が、自分の意志でさえも束縛する。
堂々巡りのそんな状況に、如何したらいいのか分らなくなって、くるりと寝返りをうった。
そうすれば、視界の隅にきらりと輝く、簪。
それはまるで、私のことを応援するかのように、目に飛び込んできた。
僅かに開いた襖からの月光で、きらきらと光るその簪を手に取る。
無意識のうちに、じっとそれを見上げていた。
「………決めた」
迷ってたって、何も変わらないのなら。
……………行動してみたって、いいじゃない。
その結果、思わぬ方向へと道が逸れたとしても。
また、その時に修正できる可能性だってあるのだから。
「………男に、なろう」
そうして、隊士に。
私も誰かのために、動きたい。
未来から来たとか、何も関係なく。
ただただこのまま周りの人たちが滅亡していくのは、決して、絶対に、見たくないから。
見届けたい、だなんて傲慢なことはもう思わない。
“今を、共に、生きよう”
昨日倒れた時にそうちゃんが言ってくれた言葉を思い出す。
うん、それで、いいんだ。
この人たちと、この時代で、戦って、泣いて、笑って。
共に、生きられれば、それで構わないと。
漸く、そう思える自分がいた。
ぎゅっと簪を握りしめる。
「……私が、いつか女に戻れたら、その時は、使うね?」
だから、それまで。
さようなら、女の私。
歳三を起こさないように、そっと押入れを開いてリュックの中にしまい込む。
なんだか、一仕事終えたような気がして、清々しさに包まれた気落ちで、布団に横になる。
明日からは、男として、隊士になる。
朝、皆に言おう。
そう決めた途端、ゆるりと眠気が襲ってきた。
瞬間、歳三のことが頭に浮かぶ。
私と危険が巡り会わないように、その可能性を一つでも少なくするために小姓にしてくれた。
私のことを、守ろうとしてくれたんだ……。
その事実に、眠気の中で気が付いた。
「………ありがとね、歳三」
綺麗な顔で眠る歳三に、口では感謝の言葉を落とした。
けれど、心の中では少しだけ申し訳なさが生まれて。
ごめん、歳三。
私は、例え危険にさらされようとも、貴方たちと共に生きたいから。
だから、私はこうするって決めた。
そんな私を、許して、くれる?
「……また明日。おやすみ、歳三……」
ぽつりと言葉を落とし、すい込まれるように、眠りに落ちていった。
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