ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第5章 存在意義

第20話

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黙り込んだ歳三に、それがあの冷たい言葉の真意だと漸く悟る。


“おめぇは、小姓だ。隊士にはさせねぇ”


この言葉に、そんな意味があったなんて。


「副長。今後、こんなに腕の立つ人材は入ってこないだろう。俺ならば、必ず隊士にする。だからあなたは、甘すぎると言った。………俺は、そう思うから」


言い切った齋藤さんは、すっと立ち上がって、律儀に礼をした。


「失礼した」


齋藤さんが出ていって、襖が閉まる音がやけに大きく響いた。

それほどまでに、室内は沈黙に満ちていて。
沈黙に、耳が痛くなりそうだった。


「………はぁ」

「とし、ぞ……?」


小さなため息に、声をかければ、再度はーっと大きくため息を零し。


「………情けねぇなぁ、ほんと」


ぼそりと落とされた歳三の言葉に、びくりと体が強張った。


「どういう、ことなの」

「齋藤の、言うとおりだ。俺は、おめぇが傷つくのが怖ぇんだよ」

「………どうして」

「どうしてもこうしてもねぇよ。ただ、そう思う自分がいるってぇだけだ」

「………え?」


尋ね返せば、じっと艶やかな漆黒の双眸に見つめられて。


「そんなの俺が知りてんだよ、馬鹿」

「…………っ」


息が、止まる。
自分の気持ちも、歳三の気持ちも、訳が、分からない。

ただ己の心臓だけは、居場所を主張するかのようにどくどくと脈打っていた。

そんな私を知ってか知らずか、やけくそのようにそれだけを言い捨てた歳三は、布団に横になってしまった。


「……そう」


まだまだ分からないことが沢山あったけれど、追及するつもりは、毛頭ない。

歳三も、何か抱えていることが分ったから。
………そして、それを知る前に、私自身、混乱していたから。


「………おやすみ」

「………ああ」


行燈の火を消せば、差し込んでくる光の道筋以外、当たり前に暗闇に包まれる。

疲れていたのか、すぐに隣からは安らかな寝息が聞こえてきて。


「………」


けれど、相反するように、私の目はどんどん冴えてゆく。

頭の中にぐるぐるとまわるのは、歳三の言葉。

“おめぇが傷つくのが、怖ぇんだよ”

彼が、そんなことを考えて私を小姓にしたのなら。


私が小姓になった理由は、歳三の、個人的感情と言うことになる。
それは、壬生浪士組にとって良く無い事だろう。


齋藤さんも言っていた。
私くらいの腕なら、絶対に隊士にすると。

………私は、隊士になるべきなの?

隊士になったほうが、壬生浪士組―――ううん、新撰組にとって、役に立つのだろうか。


「…………」


もしも、そうだとしたら。
私は、隊士になりたいと、そう思う。



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