ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第5章 存在意義

第19話

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「副長」


外から声が、した。


「………………っ」

「…………………」


お互いに、はっと我に返って、慌てて離れた。
鼓動が早すぎて、息が苦しい。

ぎゅっと着物の袷を手で掴んだ。

待って、何、今の空気感。
可笑しい可笑しい可笑しいって。


「……齋藤か?」

「夜分に申し訳ない」

「待て、今開ける」


どきどきと鼓動する胸を押さえて赤面する私とは相反して、落ち着いている歳三は布団から立ち上がって襖をからりと開く。

その先には、いつもと変わらず二本差しの齋藤さんがいた。


「話が、あるんだが」

「何だ、こんな夜遅く」

「今、話しておきたいんだ」


二人の会話が、耳に入って、何となく私がここに居ては邪魔なのかなと思った。
齋藤さんも、夜遅いのにわざわざここまで来たわけだし。


「あの」


声をかければ、二人が一気に此方を向く。


「私、席外しましょうか?」


気を利かせていったつもりだったのに、何故か歳三に一蹴された。


「何言ってんだよこの馬鹿。ここに居ろ」


その台詞に少しイラついて、齋藤さんの方を見た。


「いてくれて、構わない。特に組を左右する話でもないからな」

「……なら、居ます」


別に出ていく義理もないし。

一応布団に正座して、二人の会話に耳を傾けた。


「一つだけ、副長に言っておきたいことがある」

「何だよ、改まって」


胡坐をかいた歳三を、齋藤さんは、その澄んだ瞳で見つめて。


「副長は、甘すぎる」


その言葉に、はっと目を見張る。

如何して、そんなことを言うの。
この人は――――鬼の副長よ?


「あ? どういうことだよ」

「そのままの意味だ。人間に、甘すぎる」


唖然とする私たちをしり目に、ゆるりと目を瞑った齋藤さんは、言葉を続ける。


「………璃桜を小姓にしたのは、試験を見たからじゃないだろう。むしろ、その前から決めていたはずだ。絶対に、小姓にすると」

「……如何して、そんなことが言えんだよ」

「璃桜が隊士になることがあれば、怪我をすることもあるだろう。危険な目にもあうだろう。……それを、阻止するために、可能性は削っておいた方が良い」

「…………」



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