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第5章 存在意義
第8話
しおりを挟む「総司、君は稽古の時間じゃなかったかな? 稽古場にいるお方が、探していたよ。もちろん、随分とご立腹で」
そのご立腹のお方というのは、きっと、いや、絶対に歳三だ。
「え、もうそんな時間?! やべぇよ、総司! 行くぞ!」
「えー、やだー。どうしてもって言うなら、平助、俺のこと引っ張ってって」
「自分で歩けよ!!」
そう言いながらも、ずるずるとそうちゃんを引きずっていく平ちゃんに、若干同情する。
喧騒を連れて去っていく二人に、左之さんと源さんと共に苦笑した。
「昼餉の用意を手伝って欲しいんだが、頼めるかい?」
「はい!」
大きな返事と共に頷けば、頼もしい、と穏やかな微笑みで返される。
「じゃあ、俺もなんか手伝うかな。源さん、何かやることあっか?」
「そうだな、じゃあ、原田くんには買い出しに行ってもらおう。台所にいって、勝ってきてほしい物を書くから、とりあえず準備していてくれないか」
「おう、任せてくれ」
ぱっつぁんでも連れてくか、とにやりと笑って、ぽんと私の頭に手を載せる。
「また後でな」
そのまま爽やかにほほ笑んで、部屋に入っていった。
此処が、左之さんの部屋なんだと漸く気が付く。
「璃桜さん、部屋は覚えられたかな?」
「あ、自分の部屋は、端っこなので、すぐわかります」
そこで思う。
歳三の部屋が端っこじゃなかったら、多分私、自分の部屋にたどり着くのでさえ迷子になってる。
後で、誰がどこの部屋なのか教えてほしい。
そもそも、この時代の家と言うものに住んだことなんてなく、勉強してたとはいえ間取りがどうなっているのかさえ分らないのだから。
「と言うことは、他の人の部屋は分らないってことだね」
「はい……」
「後で歳さんにでも教えてもらえばいいよ」
その名前に、うっとたじろぐ。
何と言うか。
こう思っているのは、私だけなのかもしれないけれど。
…………目下、気まずい。
そう思って瞼を伏せた私に、聡く気が付いたのか、苦笑気味に源さんが尋ねてくる。
「歳さんと、何かあったのかい?」
「いえ、何かあったといえば、特に無いですけど…………」
彼の柔らかな笑みと、冷たい瞳が頭をよぎる。
…………そう、別に何もないんだ。
私が、個人的に感情の整理がつかないだけなのだから。
「璃桜さん、歳さんは見かけよりもずっと不器用なんだよ」
「………へ?」
何を言い出したのかと思って源さんの方を向けば、何処か遠い所を見るように顔を真っ直ぐ前に向けていた。
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