ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第5章 存在意義

第3話

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ふと、小学生のころに呼んだ本を思い出す。

ファンタジーもので、主人公は未来がわかる少女だった。
未来がわかることで、地球を敵から守ることができて、みんなに愛されるその少女のことを、羨ましいと思ったことを覚えている。


「………そんな、簡単じゃなかったんだね」


ぽつり呟いた言葉は、そのまま天井に吸い込まれていく。

その本の主人公も、こんな風に葛藤したのだろうか。
未来が分って、共に生きる人たちをもっとよく知りたいという想い。

共に生きる人たちよりも、いくつも先に進んでしまったかのような虚無感。

二つの気持ちの板挟みが、これほどまでに己の中で重いわだかまりになるとは思ってもみなかった。

またじんわりと滲んできた視界を、見なかったことにしようと瞼を閉じる。

溜息をひとつ零して、腕を瞼の上にのせた。


その時。

目を閉じたことで他の器官が敏感になったからだろうか、己に向けられているいくつかの視線を感じた。

それは、少しだけ開いた襖の外からのもので。
そ知らぬふりをしていれば、何やらぼそぼそと話し出す。


「璃桜のやつ、中にいるのか」

「いるみたいですよね、この平助の反応見てると」

「うるせぇ、ばれたらどうすんだ」


いや、ばれてるよ。
………喧騒でしかない。

キミタチは、もうすぐ壬生浪士組の副長助勤になるんでしょうが。

こんなに気配ダダ漏れにしていたら、どんな敵にも見つかってしまう。
現に、私でも外に誰がいるのか分ってしまったくらい。

さっきとは違った面倒くささによるため息を一つついて、よっこらしょ、と立ち上がる。


「おい、璃桜はなにしてる?」

「ちょっと待ってください、平助、見えないからもっと前行ってよ」

「わ、馬鹿、総司押すな………わぁ!!」


スパーン。

案の定、勢いをつけて開いた扉の先には、


「何、してるんですか?」


春の木漏れ日踊る縁側に似合わず、団子になって。

―――――左之さん、平ちゃん、そうちゃんがいた。



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