ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第5章 存在意義

第1話

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芹沢局長の部屋の襖が閉じられても、解放されない腕。


「痛いって、としぞ、」

「……うるせぇ、ちったぁ黙ってろ」


歳三に引きずられるようにして、自分たちの部屋にたどり着いた。

ぱたんと音を立てて襖が閉まり、漸く解放された。


「痛いなぁ、何するの」

「璃桜、おめぇ芹沢に気に入られちまったぞ」

「だから何よ」


むしろ私の方が興味を持っているくらいだ。

だからこそ、目の前で不機嫌そうに眉間に皺を寄せる歳三に、疑問を感じた。

だから。


「如何して、芹沢局長に気に入られたらいけないの?」


私は純粋に、尋ねただけだった。

けれど。


「……何で、おめぇはそうやって、」


貴方は私に向かって、ぽつりと、言葉を落とす。
瞬間、その漆黒をはっと目を見開いた。

まるで、言葉を零してしまったことに驚いているかのように。


「…どうしたの」

「…………何でも、ねぇよ」


冷たく無表情でそっと瞳を伏せた歳三に、ぐ、と胸が掴まれた気がした。

その場に流れる沈黙に気圧され、俯いて黙っていれば、目の前に似合った濃紺の着流しが、ゆるりと動く。


「………俺、稽古みてくる。おめぇは戻ってくるまでこの部屋の掃除でもしてろ」


襖が閉まる寸前、投げつけられた言葉に、きゅっと唇を噛み締めた。

どうして、そんなに突き放すような物言いをするの。
優しいのか、冷たいのか、どちらかにして欲しいと思うのはよくばりだろうか。

そんな私でも、タン、と閉められた襖の向こうに、物憂げな表情の貴方がいるのが簡単に想像できてしまう。

何故だかは、わからないけれど。
その想像した貴方に、ひどく切なく心が音をたてた。

突き放されてしまったからには、とても追いかけることなど出来なくて、ゆるりと目線を下に落とす。


その視線に、未だ敷きっぱなしの布団が入った。
それを見て、寝ていた歳三の呟いた言葉を思い出す。


――――――璃桜。


そう、確かに、彼は私の名を呼んだ。
その声に、何処か僅かに既視感を覚えてしまう。


いいや。

声だけでなく、瞳も、髪も、彼の全てが私の記憶に訴えかけて。

どうしてかなんて、全く分らない。
けれど、彼の――――歳三の笑った顔が見たいと思う私がいた。


それなのに。

……あんなにも切なさを湛えた顔をさせてしまう。



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