69 / 161
第5章 存在意義
第1話
しおりを挟む「おかえり。無事帰って来てくれてうれしいよ」
コノハは満面の笑みで静葉を迎えた。遺跡を沈めた地下水脈にはあらかじめオアシス地下の拠点までの道が用意されており、簡単に帰ることができた。拠点の実験室にはすでにベアードとティータが帰還していた。ティータは頬に絆創膏を貼り、右腕にギブスを巻いている。
「いやぁ、今回はやばかったわぁ。あの僧侶、洒落にならんでホンマ」
「マジで?そんなにやべぇのいたの?」
二人は椅子に座って雑談していた。静葉はその話題になっている僧侶の遺体を脇に抱えている。それを見たティータは目玉をひん剥いて驚いた。
「うお!?それなんスか魔勇者様?」
「そこの支部長様に持ってこいと言われてね」
静葉は溜息をついた。彼女の右腕は遺体から流れている血によって赤く汚れている。
「お、それそれ。彼女の身体はそこに置いといて」
「わかったわ」
コノハにそう指示されて静葉はメイリスの遺体を研究用のテーブルの上に寝かせた。
「あと、これね」
静葉はポーチから取り出した聖剣の刀身をコノハに渡した。
「…うん、この白銀の輝き…間違いなく聖剣エクセリオンだね」
「本当にそれで裏の伝説がわかるの?」
静葉は質問した。
「ん?まぁ、そうだね。他に有力な手掛かりもあるしね」
「他?」
「なんでもない。とにかく、これで任務は完了だよ。三人ともお疲れ様。あとは食事でもとってゆっくり休んでね」
コノハは労いの言葉を送りながら道具箱をいじり出した。
「そう…それじゃお言葉に甘えるとするわ」
「いやー、腹減ったぜ」
「ほんまやな。あ、この有様やから食うの手伝ってな」
三人はぞろぞろと実験室を後にした。
「さて…と…」
三人を見送ったコノハはテーブルに寝かせた僧侶に目を向けた。
「…ゆっくりと休めたかい?僧侶様?」
コノハが声をかけると僧侶はパチリと目を開き、声の主に顔を向けた。
「…おかげさまでね。もう少し良いベッドに寝かせてほしかったけどね」
「おっと、気が利かなくてごめんね。アハハ」
コノハは笑いながら答えた。
「それにしてもすごいね。あれだけのダメージを受けたにも関わらずもう動けるようになってるなんてね」
「えぇ、その代わりだいぶお腹すいたけどね」
メイリスは身体を起こし、修道士服の穴の開いた部分を指さした。そこから見える胸部には魔勇者が黒い炎の手刀で貫いた風穴があったはずだが、まるで何事もなかったかのように塞がっていた。
「へぇ、ここまでキレイに塞がるとはねえ」
コノハは何も動じることはなくその色白の肌を直視していた。
「あら、お姉さんのセクシーなお胸を見て何とも思わないの?」
メイリスは期待した反応を得られず不満げに尋ねた。
「人間の裸体は男女問わず実験の過程でたくさん見てきたからね。それに、こう見えて長生きなんだよ僕」
コノハは肩を竦めた。
「あらそう…残念ね」
メイリスは溜息をついた。
「…ところで、いつ気づいたの?」
胸部をさすりながら彼女は尋ねた。
「あなたが魔勇者様に一撃入れた時かな。あれほどの威力、僧侶に…いや、どんな達人でも人間には出すことはできないはず」
「へえ?」
「生物は肉体の自壊を防ぐために無意識に筋力を抑制している。たとえ魔力や薬物を用いて上乗せしても潜在能力の数パーセント程度しか力を発揮することはできない」
コノハは淡々と説明した。
「…しかし、そのような枷が存在しない種族が存在している。魔王軍には珍しくないけどね。つまり…」
「ええ、ご明察よ」
メイリスは足を下ろし、テーブルに端座位になった。その足をなまめかしく組みながら彼女は答えた。
「そう。私は不死の人間……いわゆるアンデッドよ」
コノハは満面の笑みで静葉を迎えた。遺跡を沈めた地下水脈にはあらかじめオアシス地下の拠点までの道が用意されており、簡単に帰ることができた。拠点の実験室にはすでにベアードとティータが帰還していた。ティータは頬に絆創膏を貼り、右腕にギブスを巻いている。
「いやぁ、今回はやばかったわぁ。あの僧侶、洒落にならんでホンマ」
「マジで?そんなにやべぇのいたの?」
二人は椅子に座って雑談していた。静葉はその話題になっている僧侶の遺体を脇に抱えている。それを見たティータは目玉をひん剥いて驚いた。
「うお!?それなんスか魔勇者様?」
「そこの支部長様に持ってこいと言われてね」
静葉は溜息をついた。彼女の右腕は遺体から流れている血によって赤く汚れている。
「お、それそれ。彼女の身体はそこに置いといて」
「わかったわ」
コノハにそう指示されて静葉はメイリスの遺体を研究用のテーブルの上に寝かせた。
「あと、これね」
静葉はポーチから取り出した聖剣の刀身をコノハに渡した。
「…うん、この白銀の輝き…間違いなく聖剣エクセリオンだね」
「本当にそれで裏の伝説がわかるの?」
静葉は質問した。
「ん?まぁ、そうだね。他に有力な手掛かりもあるしね」
「他?」
「なんでもない。とにかく、これで任務は完了だよ。三人ともお疲れ様。あとは食事でもとってゆっくり休んでね」
コノハは労いの言葉を送りながら道具箱をいじり出した。
「そう…それじゃお言葉に甘えるとするわ」
「いやー、腹減ったぜ」
「ほんまやな。あ、この有様やから食うの手伝ってな」
三人はぞろぞろと実験室を後にした。
「さて…と…」
三人を見送ったコノハはテーブルに寝かせた僧侶に目を向けた。
「…ゆっくりと休めたかい?僧侶様?」
コノハが声をかけると僧侶はパチリと目を開き、声の主に顔を向けた。
「…おかげさまでね。もう少し良いベッドに寝かせてほしかったけどね」
「おっと、気が利かなくてごめんね。アハハ」
コノハは笑いながら答えた。
「それにしてもすごいね。あれだけのダメージを受けたにも関わらずもう動けるようになってるなんてね」
「えぇ、その代わりだいぶお腹すいたけどね」
メイリスは身体を起こし、修道士服の穴の開いた部分を指さした。そこから見える胸部には魔勇者が黒い炎の手刀で貫いた風穴があったはずだが、まるで何事もなかったかのように塞がっていた。
「へぇ、ここまでキレイに塞がるとはねえ」
コノハは何も動じることはなくその色白の肌を直視していた。
「あら、お姉さんのセクシーなお胸を見て何とも思わないの?」
メイリスは期待した反応を得られず不満げに尋ねた。
「人間の裸体は男女問わず実験の過程でたくさん見てきたからね。それに、こう見えて長生きなんだよ僕」
コノハは肩を竦めた。
「あらそう…残念ね」
メイリスは溜息をついた。
「…ところで、いつ気づいたの?」
胸部をさすりながら彼女は尋ねた。
「あなたが魔勇者様に一撃入れた時かな。あれほどの威力、僧侶に…いや、どんな達人でも人間には出すことはできないはず」
「へえ?」
「生物は肉体の自壊を防ぐために無意識に筋力を抑制している。たとえ魔力や薬物を用いて上乗せしても潜在能力の数パーセント程度しか力を発揮することはできない」
コノハは淡々と説明した。
「…しかし、そのような枷が存在しない種族が存在している。魔王軍には珍しくないけどね。つまり…」
「ええ、ご明察よ」
メイリスは足を下ろし、テーブルに端座位になった。その足をなまめかしく組みながら彼女は答えた。
「そう。私は不死の人間……いわゆるアンデッドよ」
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる