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第4章 試験
第23話
しおりを挟む「おい、土方。お前たちは、何故昨夜、光明寺へ訪れなかった?」
芹沢鴨に興味を持って見ていれば、その人はじろりと私から歳三に瞳を移して、そう言った。
光明寺に、訪れなかった?
その言葉に、はっと気が付く。
昨日はこの組が、正式に京都守護職のお預かりになった日。
頭の中に詰め込んである、歴史を振り返る。
確かその夜に、京都守護職の本陣がある、黒谷の金戒光明寺へと訪れているはずだ。
八木家の人に、正式な上下と着物一式を借り受けて、皆同じ家紋を付けて恥ずかしい想いをした、という逸話も残っているのだから。
けれど、昨日、出逢ってから歳三は倒れた時を抜けば、ずっと私の傍にいた。
と言うことは、黒谷へは行っていないことになる。
「何故? それは筆頭局長の芹沢先生がお行きになるのが、最も相手を敬うことになると思ったからですよ」
小さく綺麗に笑った歳三は、そうよどみなく答える。
けれど。
その、“筆頭局長”という役職は、何処でいつ決まったのだろうか。
それだけでなく、局長も、副長も昨日自己紹介したときにはすでに決まっていた。
史実では、黒谷での宴会で酔った芹沢が勝手に名乗り出て、それを聞いていた土方が最もらしい理由を付けて、近藤を脇に立てたのだということになっている。
それを初めて知った時、土方歳三のことを、なんて先の読める人だろう、と思ったことまでしっかり覚えている。
今の話と、史実はかなり矛盾点があって。
「嘘だな」
「嘘だなんて、そんなことないですよ」
剣呑な空気感が、お互いのほほ笑み裏に隠されていた。
緊張した雰囲気がその場を支配していて、息をするのすら憚られる。
そっと息をつめて、成り行きを見守る。
「………その小僧は、お前にとってお上の設けてくれた酒の席を蹴ってまでも世話する必要のある奴なのだろう?」
芹沢さんは、再度私を目に入れるなり、下卑た笑いをその顔に浮かべて、誰ともなく問いかけた。
その細められた瞳に、どくりと鼓動が鳴る。
如何して良いのか分らなくなって、歳三を見上げれば、涼しい表情でゆるりと笑っていた。
「………もしも、そうだっていうのなら?」
「ならば、何故小姓などと狭い職に押し込むのだ」
「押し込んでいるわけでは、無いですよ。先ほどの手合せを見て、小姓が丁度良いと思ったまで」
「沖田も倒さんばかりの力があるのにか?」
その言葉に、そうちゃんとの手合せをずっと見られていたのだと悟る。
はっとした私に、芹沢さんはふん、と鼻で笑って、尋ねてきた。
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