ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第4章 試験

第22話

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私の目の前を、すたすたと長い脚で歩いていく、歳三。
昔の人の癖に、身長が高い。

160㎝はある私よりも、10㎝くらいは高い気がする。

スーツとか、似合いそう。
そんなことを考えながら、濃紺の着流しを若干小走りになって、追いかけた。

歩き続けること1分くらい。
ぴたりと歳三が足を止めた部屋は、丁度屋敷の両極に位置する部屋だった。


「………芹沢局長、土方です。小姓の挨拶に参りました」


すらすらといつもでは考えられないほどのきれいな言葉で口上を述べ、からり、と襖を開いた。


「……入れ」


部屋に入るなり、私たちを濃厚な酒のにおいが襲う。
そっと袖で鼻を押さえていれば、目の前にいた大男が口を開いた。


「ほう、お前が土方の小姓か」

「私の小姓の、沖田璃桜です」


その言葉とともに、歳三のうしろからぽんと前に出された。


「……よろしくお願いします」


一応お辞儀をすれば、じろじろと小さな瞳で私を見た。


「沖田……?沖田総司の、親族か」

「そうです、双子の弟です」

「やはり、道理で良く似ておる」


自分の予想が当たったのが嬉しかったのか、何度か大きく頷いて、そして私をじっと見て言った。


「我の名は、芹沢鴨。壬生浪士組筆頭局長を務めておる」


その朗々とした声に、想像していたイメージとかけ離れたものを感じた。

芹沢、鴨。
神道無念流剣術を学び、免許皆伝、師範代を務めていた人。

尊王攘夷の思想を持ち、何事も己の思うままに行動するとされた人物だ。
もっと鬱々と欲望の滲み出ているヒトだと思っていたけれど、それはあくまで自分が学んできた歴史上の人物像からのイメージでしかない。

あの芹沢鴨が、目の前で生きているのだな、と何とも言えない感覚に陥った。

そして、ここでも私の歴史好きの性格が動く。

もっと、この人について知りたいと思ってしまう自分がいた。



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