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第4章 試験
第12話
しおりを挟む……そうくると、思ったよ?
気配と息遣いから、行動を読み取った私は、着地した左足を一歩目にして、近づいてくる綺麗な瞳に向かっていく。
私の方が小柄だから―――――――速い。
ダァンッ!!
一瞬の隙をついて、ブンッと木刀を一閃させた。
入った………?
そう思ったのも束の間。
背筋が、凍った。
総司の、発する殺気の鋭さに。
その琥珀の、瞳の張りつめ方に。
ひやりとした嫌な汗が、背中を伝う。
相対するように、どくどくと騒ぎ出す心臓。
まるで、楽しんでいるかのように無意識のうちに上がる口角。
時が止まったかのように、全てが他人事のように感じて、総司をじっと見ていれば。
左の肩を引いて右足を出し、体は半身に開くように構え、そして剣先が、正眼よりもやや右に寄って。
天然理心流 平星眼――――――沖田総司の突きの構えが、今、私の目の前にあった。
息をするのさえ許されないような、張りつめた空気に、ゴクリと自分の喉が鳴る。
さぁ、如何する。
じっと見つめるそうちゃんの瞳が、そう問いかけてくるようで。
本気の、瞳だった。
沖田総司が本気を出してくれるなら、此方も出さないと。
そう思ってそこで漸く、今まで私が本気を出していなかったことに気が付いた。
丁度良く、傍に落ちていた、竹刀を左手に取る。
腰を落として、足を大きく開く。
右は高めに、左は低めに二手を構える。
竹刀を取ったときからざわついていた周りの喧騒も、耳に届かないほど集中していた。
そう、私の本気、それは両刀――――――二刀流。
もともとは、一刀流を極めるために始めたのがきっかけ。
二刀流は、バランスをきちんと取れていなければ振るえないから、その点で自分がどこが弱いのかを知るのにとても役立つ。
けれど、強い相手と戦う度に、二手の方が相手に隙が出来やすいことに気が付いた。
だから私は、一刀流のおじいちゃんの教えに加え、二刀流を自分なりに改良してきた。
我流だといったのは、そのためだった。
総司とともに、ぴたりと静止したまま、鋭い瞳で睨み合う。
お互いの呼吸だけがその場に響く。
同じ琥珀色の目線だけで、手合せをしているような感覚に陥った。
きん、と鋭さを増すそうちゃんの瞳。
そこには平成の頃の暖かい空気感など微塵も無くて。
剣を取るときの貴方は、もう“そうちゃん”では無い。
これが、沖田総司。
その名が、――――――漸く目の前の貴方に一致した。
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