ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第4章 試験

第11話

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「いいでしょ、俺でも」

「い、いいんだけどさ……」

「でしょう? じゃあ」


そう言って、いきなりすっと木刀を上げる。


「………お願いしますね?」


―――――――――正眼の、構え。
剣道の基本の構えだ。

口角を上げたそうちゃんの、真っ直ぐな、琥珀の瞳に見据えられて。

一気に、甘い考えが吹き飛んだ。
どくり、と心が鼓動を一つ打つ。

その響きに、自然と此方も正眼に構えていた。


「へぇ、璃桜、正眼なんだ」


どこかでそんな声がしたのが、遠く耳を掠めたけれど、目の前にゆらりとなびく剣先が、私の視界を捉えて離さない。


「………ふ」


久しぶりにぴりぴりとした緊張感をまとう自身の身体に、図らずも笑いが口から零れた。


「お願いします」


じっと琥珀色の瞳を見据えれば、話すことが許されないような、ピンと張りつめた空気が一瞬にして私を包む。

その空気感に、周りの音など何も感じなくなる。

総司と相対して動かない。
互いの間合いぎりぎりで、ただただ睨むように目線を合わせていた。


―――――――――動いたら、負ける。
お互いにそう思っているから、無暗に動くことはできなくて。


………彼の、呼吸を捉える。

相手の、鼓動を。
相手の、心を。

相手の……気配を。

身体全身で、感じ取れ。


今は亡きおじいちゃんの、最後の教えだ。

そうすれば、必ず隙が見えてくるから。


そっと目を細めて、見極めれば。

―――――――来る。



ダンッ!!

カァンッ!!!



ほぼ同時に、床の木目を蹴り上げ、木刀を一閃させた。


「……っ」


右に切り上げられて、身体を横に捻って避ける。

そのまま左を狙えば、再び竹刀が交りあった。

鍔迫り合いになり、反動でそうちゃんの長い柔らかな髪が己の頭にふわりと触れた。


ぎちぎちと続く鍔迫り合い。
お互いに、決して譲らない。

これ以上この状態が続いても体力が減るだけで、そうしたら女の私が負けるに決まっている。
力は、勝てないから。


そう思って、総司の木刀を一瞬の力で強く押して、後ろに飛び退いた。

それにかけた力に、少しエネルギーをとられてしまう。
けれど、新撰組きっての剣士はその隙を狙って、私の開けた距離を再び縮めてくる。



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